1 双子の弟はスポーツマン?
双子どちらか片方だけが優秀になるというのはよくある話らしい。
同じ家に暮らす兄弟だって優劣がつく。
双子は年齢が同じだからこそ能力差がお互いにも周囲にも突きつけられる。
そして、幸いというべきか俺と弟はそこまで能力も顔も差がなかった。
世の双子の話を聞いていて自分たちは平和でよかったなんて笑い合っていた。
そっくりな双子とはいえ、小学校に上がるころには趣味趣向は変化する。
わざとお互いに合わせたりすることはなかった。
弟である大智(だいち)は多趣味で活動的になり外で遊ぶ子供に育ち、兄である俺、空太(そらた)は本を読んだり勉強をする子供になった。
好きに生きて成長したというよりは両親に誘導されていた。
思い返すとそんな言い訳をしたくなる。
双子とはいえアレルギー反応が俺たちは違っていた。
食物アレルギーやアトピーは俺が一番ひどかった。
親からすれば俺は手のかかる子供だった。
そのせいか母は俺の食べるもの着るものどこに行くのかなどを過剰に気を配る。
それがわずらわしくて俺は出不精になった。
いずれ俺のように強い反応が出てしまうかもしれない大智は強い体を作るために体を動かすように医者に言われたらしい。
見た目が似ているとは言っても食べられるものが違ったり、大智が出来ることが出来なかったりする俺だった。
自分が不出来なのをとくに自覚したのは中学受験だ。
大智は私立の学園に受かり、俺は同じ学園に落ちた。
剣道の大会で好成績をおさめていたことが優位に働いたのだと言い訳のように大智は言っていた。
ここで初めて俺は知る。
同じに見えて大智が俺よりも格が上だと思い知る。
中学は同じ公立に通った。
受験に合格した私立に大智は通わなかったのだ。
俺に遠慮したのかは聞けなかった。
第二次成長期に入り、俺たちの見た目は確実に変化していった。
大智は俺と同じく平凡でどこにでもいる顔だが、体つきがスポーツマンのものになっていた。
男から見ても格好よく理想的な体格だ。
俺たちは同一人物というほどそっくりな双子から顔が多少似ている兄弟レベルになった。
中学で大智に俺が間違われることは殆どなくなった。
優秀な弟に嫉妬する兄に俺はならなかった。
大智がきちんと体を鍛えてがんばったから結果を残しているのだと俺は知っている。
羨ましいと思う気持ちはあっても妬ましいとは思わない。
大智も兄を出来そこないだと見下す弟にならなかった。
俺たちはケンカはしても半日で自然と仲直りする普通の兄弟仲だ。
いつまでもそのままで居られると思っていた。
けれど、それは高校受験のためにやってきた大学生の家庭教師によって変わってしまう。
俺は中学になって家庭教師に週三回ほど二時間、勉強を見てもらうようになった。
大智は部活の後に塾に通っていた。
ちなみに部活で忙しいはずの大地のほうが何もしていない俺よりも成績がいい。
大智は塾だけではなく部活のセンパイにテストの傾向を聞いたり勉強を教えてもらっているからだと言っていた。
俺に対するフォローだろう。遺伝子が同じでも使い方で差が出るいい見本になった。
時間つぶしに本を読んでいても読書が好きなわけではないし、勉強も好きでやっていたわけじゃない。
好きじゃないので俺の成績がよくないのは当然だ。
大智は部活を続けるためにも成績は落とせないのでテストの点がいい。
努力して勉強をしているのだから成績がいいのは当たり前だ。
俺は大智に勝ちたいとか、大智より上に行こうという気持ちがまるでない。
元々なにかを頑張ろうと思う意欲が低い人間だった。
その中で家庭教師の大学生にふんわりとした好意を持った。
自分がゲイだという意識なんかない。
それでもエッチなことには興味があるので家庭教師に教えられて行為にハマっていく。
好きやかわいいと言われながらキスされることに悦びを見出し、会えない時間がさびしくなったりした。
中学時代の淡い恋にするには生々しい性欲を伴ったものだった。
それでも、俺は本気で彼のことが好きだった。
弄ばれているなんて思いもしない。
好きだと言われていたので相手も自分を好きなんだと思い込んでいた。
結果、俺は最悪の形で裏切られた。
ある日、俺の部屋のベッドで家庭教師と大智が抱き合っていた。
浮気をされたこともショックだが、ふたりに一緒にやろうと勧められるまま三人でセックスしたのも衝撃的だ。
大智にキスされたり、大智のチンコを舐めた。
家庭教師に喘がされる俺に大智が顔射した。
今までふたりでしたエッチよりも家庭教師が興奮していたことも悲しかったが気持ちよかったのが悔しい。
以降は三人ですることが増えた。
家庭教師は双子の味比べをするのが夢だったと言っていた。
大智が部活を辞めると俺が勉強している隣で大智と家庭教師がセックスする光景が普通になった。
俺と大智、ふたりともが好きだと口にする家庭教師が気持ち悪くて俺は図書館で自主的に勉強することが増えた。
結果的に志望の学校には受かったが俺は滑り止めとして受けさせてもらった寮のある学園に入った。
自分の部屋の中に見覚えのない使用途中のローションが転がっているのが気分が悪かった。
今まで俺は大智を羨んだりしなかった。
でも、恥ずかしげもなく家庭教師とセックスに興じる大智が羨ましくて妬ましかった。
自分だけを好きでいてもらえないことが苦しいのだと初めて知ったし、大智ほど明け透けなエロさを俺は持てなかった。
高校は寮に入り自然消滅のように家庭教師とは縁が切れた。
大智とは連絡を取り合っているかもしれない。
高校は高校で大変だったが周りから双子だと思われていないのは気楽だった。
無意識に比べられたり大智の話題に俺は疲れていた。
家庭教師の彼が俺のことを好きではなかったこともまた心に傷をつけていた。
双子であるから好きだとか、大智と俺の両方を好きだなんて言葉は嬉しくもなんともない。
大智は嬉しそうにしていたし、俺と家庭教師と三人でするセックスを楽しんでいた。
理解できないと思った。
そして、大学生になった俺はコンビニでバイトをしている。
高校のセンパイである牧さんが店長を務めるコンビニだ。
生徒会役員ではないものの牧センパイは優しい風紀委員長だった。
高校から入学した生徒は外部生と呼ばれて学園に馴染めない。
センパイはそんな俺に優しく手を差し伸べてくれた杞憂な人だ。
ひとりでいるとどこからともなく現れて話し相手になってくれる。
それは今も変わらない。
コンビニの上にあるマンションの一室を牧さんと俺はルームシェアしている。
本当は同棲と言っていいのかもしれない。
コンビニのバイトと牧センパイを牧さんと呼び、一緒に暮らすのに慣れた頃、告白された。
その時がきっと一番幸せだった。
俺のことを好きだと言ってくれる人がいるのが嬉しかった。
牧さんのパソコンの中身を見るまでは、本当に幸せだった。