心のねじけた人=鷹という風潮

 自覚なく藤高の愛をむさぼっていたらしい自分を振り返ってオレは反省することにした。
 周りからの圧力に負けたからじゃない。
 罪悪感があるわけでもない。
 
 でも、なんだかんだで藤高が不感症になっている理由の答えが分かった。
 
 不干渉でありたいからこその不感症のせいで下半身が完全に元気にならない。
 オレの手だから振り払わないだけで本当は触られたくないだろうし、考えたくもない。
 頭の中から自分の大切な息子のことを追い出している。
 名前のことと構図は一緒。
 
 呼ばれなければ意識しない。
 自分の一部で切り離せられない自分自身のことなのに誰かからも指摘されず呼びかけられない限りはなかったことにしている。
 自己暗示に近い思い込みで藤高の中で切り捨てると表現したくなるほどに切り離している。
 
 だから、オレが下手だとか以前の問題だと思う。
 
 藤高自身もいろいろと自分の不自然さは感じてオレに歩み寄ろうとしてくれているけれど、根本的に問題はそこじゃない。
 
 
「オレが藤高と一心同体になりたいってぐらいに繋がりたいって知ってる?」
 
 
 お互いに自己愛が強くて相手を愛することで、より自分を愛せたりする屈折したところがある。
 それを踏まえて考えるとオレが藤高との行為に前向きどころか前のめりで土下座したいぐらいなのは一体感が欲しいからだ。
 一緒に気持ちよくなる行為は快感が二倍三倍なんてそんなちっちゃいものじゃない。百倍千倍の世界だ。
 
「急になんだよ。……股間踏んでほしかったんじゃねえのか」
「いや、その……もちろん、転入生みたいに踏んでほしいけど、違う! ちょっと聞いてっ」
「聞いてるだろ」
 
 溜め息を吐く藤高は涼しげで格好良すぎる。
 写真に撮っていつでも見返したい。
 
「前会長と話しててイライラしてさぁ」
「愚痴か」
「性欲の伴わない愛の方がイノセントでピュアだって押し売りしてくる」
「あの人は抱くなら抱けると俺に言ってくるけどな」
「まるで欲望のかたまりでいつでも発情してるオレが間違ってるみたいな!」
「盛りが付きすぎてるから見下されもするだろ」
「見下されてはいないけど自己中腰ふり犬って言われるのは屈辱だよ」
「さすがセンパイ。的確な表現」
 
 納得する藤高は確実にオレの言葉を聞き流している。
 手をつないでもキスしてもセックスしたって届かなければ意味がない。
 
「オレは本当に藤高が嫌ならしない」
 
 藤高が目をそらしている部分を突きつけるのは本当はするべきじゃない。
 オレは今までしなかった。
 藤高の振る舞いに文句がなかったからだ。
 どんな藤高だって好き。
 オレの感情と向き合わなくても、オレの言葉の意味を考えなくても、オレは藤高が好き。
 
 自分の愛を押し通してオレは藤高に俺と向き合う機会を奪っていたのかもしれない。
 オレはオレ自身の気持ちでいっぱいで藤高から何も貰う気がなかった。
 でも、それは藤高が渡したいと思ったものを受け取らないのとは違う。
 
「オレは藤高と精神的につながりたい」
 
 藤高の手をつかむ。震えているのが分かる。オレからこういった言葉が出ることを想定していない。
 オレの中にある欲望が肉欲だけだと思ってる。
 丸ごと全部がほしいって口に出しても藤高の頭の中まで意味が届かない。
 押しても引いても藤高には届かない。
 藤高自身がバランスをとって押した分だけ引いて、引いた分だけ押すからオレたちの距離が変わらなくなる。
 変わらないでいることが良いか悪いかじゃない。
 藤高は藤高だからこそ、こういう風にしかいられない。それはわかっているから責めたいわけじゃない。
 
「オレと最後の初めましてをしよう。……オレに藤高の心を頂戴。俺の心も藤高にあげるから」
 
 藤高が感じる不安感はそのまま息子の不調につながっている。
 噛まれた痛みで心が折れた結果、上手く勃たなかった藤高がきちんと反応を示したのはオレがいたおかげだって自惚れている。
 でも、同時に最後の一線を躊躇させていたのだってオレだ。
 オレが信用ならないと藤高は心の中で線を引いていた。
 だから、身体も前に進まない。
 オレのテクニックとかそういう話じゃない。
 
「初めての次は二度目、三度目ってやっていこう」
「翌日すぐにそうなりそうだな」
「藤高以外と何もしないから溜まるのは仕方ない」

 オレの言葉に藤高は小さな声で「ありがとう」と言った。
 これはオレが暗い顔をした藤高を遊びに連れだしたときや会長になって風邪を引いた時や雑音を掃除した時なんかの正解の反応。
 
 藤高が出来なかったことをオレが拾い上げたときに出てくる言葉。
 オレはしたいことをしているだけだけれど藤高は見惚れる笑みを静かに浮かべる。
 自分に得がなくても藤高のこの表情を見るために何だって出来る。
 藤高のこの顔が誰にでも見せるものじゃないと知っているからだ。
 特別であるのは気分がいい。
 藤高の特別がオレなのも。オレの特別が藤高なのも。最高だ。

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