二十三

※藤高視点。



 俺の人生は一言で済むとは言わないけれど「他人を思いやれなかったことに対する後悔」で形作られている気がする。
 一般で言うところの正しさは知っている。
 わかった上で常識から外れた選択をしてしまう。
 
 たとえば瑠璃川水鷹を好きなこともベストな選択じゃない。
 男である上に性格が最悪の無神経男だ。
 
 前会長のセンパイを責める気持ちにはなれない。
 彼はもうこうするしかない。それが俺のためだからだ。
 俺のためだと信じている押し付けがましい愛じゃない。
 そう見せかけようと転入生を脅しに使ってくれているけれど無駄な工作だ。
 
 これは集団が抱える無意識な不満に対するガス抜きだ。
 
 前会長が動かなかったら烏合の衆に襲われたり警察を介入せざる得ない状況にまで発展する。
 そのぐらいまで水鷹に対する反発と転入生への嫌悪が高まっている。
 
 転入生を会長に押し上げるまでは元親衛隊たちが協力して行うだろうがその後が続かない。
 イベントの後にはまたイベントがないといけないのに次の敵が見当たらない。
 俺がそらし続けていた敵意は俺に向くか水鷹に向く。
 勝ち逃げはできそうにない。
 その危険性は理解しながらも切り抜けられる気になっていた。
 
 水鷹との関係が変化したり戻ったりしていて何もかもが上手くいくような万能感があった。
 同時に何もかもから逃げて考えずにいたかった。
 他人の痛みは俺の痛みじゃない。だから、俺の目を覚まさせなければならないという謎の使命感にかられた人間たちが動こうとしていたとしても最後の一線を踏み越えないことを祈るだけで対策はおろそかだった。
 
 平和な学園の生徒たちが本気で俺をどうにかすることなんかないと思っていた。
 けれど、現実はそうとも言い切れない。
 
 転入生派についたと思っていた美少年好き派、旧バージョンの会計支持層は俺の信者が寝取ったらしい。
 生徒会長になると燃えた転入生は味方だと思った人間に寝首をかかれることが決定していた。
 これの意図するところは生徒たちをまとめきれない転入生はやっぱりどうしたところで転入生だから会長は無理という印象操作だ。
 
 そして最終的には誰もが納得する人間である俺にお願いしようという結論にしたい。
 俺が主導する形で転入生を会長に推して転入生が不祥事を起こしたら俺が形だけでも責任をとらなければならない。
 一番きれいにまとまる方法として提案される俺の会長就任は中学から望み続けた人間も多いのかもしれない。
 正直言って冗談じゃない。
 
 それを前会長はわかってくれている。
 
 けれど、俺を支持する層の代表だと思われている前会長は反対意見が言えない。
 言うことに意味がない。賛成意見しか求めていない人間たちに正論を説いたところで聞く耳を持つ者はいない。
 とくに不特定多数の人間に対して反論は無意味。ひとりひとりに訴えていくならまだ制御できるかもしれないが俺を好きだという気持ちを胸に秘めて状況が整ったから行動を起こすという潜伏信者は存在する。
 
 必要なのは代案を打ち立てたり先に行動を起こして示すことだ。
 そのやり方ではなくこちらの方が賢い選択だと見せる。
 
 たとえばここ一カ月ちょっと俺に触れることが出来ずに欲求不満な人間なら抱いてしまえば考えをコロッと変えるだろう。アンチ水鷹だった気持ちは完全にリセットされなくとも敵意は抑えられる。そして、その感情というのは集団で伝播していく。
 
 おとなしくお利口であればご褒美があるとなれば過激なテロ行為を行わない。
 俺を会長に押し上げようという気持ちよりも目先の欲求で幸せになれる。
 抱かれて幸せ、そばにいれて幸せ、好きでいることが幸せ。
 その感覚を俺は無意識に否定していた。俺を好きな人間が信じられない。

 自分を好きな人間が巻き起こす騒動に対してのある程度の対策はしているし、その都度に諍いの気配をおさめてきている。俺が整えた静かで平和なハーレムに争いの火種を持ちこむのが水鷹でさえなければ全部が上手くいった。
 
 親衛隊の中でプライドが高い人間ほど急に泣き崩れて精神面が疲弊しているのは知っていた。
 水鷹の無神経さに幻滅したとか3Pに嫌気がさしたなんていう問題ではなかった。
 
 人の地雷を踏みぬくことを生き甲斐にしているようにノリノリなテンションで自分の親衛隊に水鷹はケンカを売っていた。それは転入生を自分に触れさせようと好意をゲームに使おうとしていたような最低な倫理観からくる遊び。
 
 親衛隊の小奇麗な顔が般若に変わるのを楽しむドS野郎なのかお気に入りの子から攻撃を受けることを悦ぶドM野郎かは俺でもわからない。
 
 水鷹が他人の気持ちよりも自分の興味と快楽を重視しているのだけは分かる。
 そして、その他人の枠にはもちろん俺も入る。
 俺が円満にまとめたことを知らないうちにちゃぶ台返しをしだすのだから前会長がこのままでいいのか聞いてくるのは当然だ。
 彼はあくまでも俺の味方で物事を考えてくれている。
 
 水鷹と縁を切らない、会長にもならないとなると俺の物理的な支配になる。
 ガス抜きをしていれば操り切れたかもしれないが前会長が行動を起こしてくれたということは俺ではすでに制御不能だということだ。
 
 動き出した集団が俺にすることと言えば暴論で理論の跳躍がある気もするが拘束して強姦、そういったものになる。
 脅すためにケツを狙われるのか、勃起が不十分だからケツになるのかはわからないが確実に展開は整えられている。
 
 水鷹の兄から聞いた話、俺たちの学園の生徒がセックスドラッグを学園内に持ち込んでいるという。
 今回、水鷹が病院に運ばれた理由がドラッグの類だと思ったからこそ心配して駆けつけてくれた。
 実際は杞憂だったので脱力感から苛立っていたけれど生徒たちがドラッグを購入しているというのはほぼ間違いない事実らしい。
 
 個人的な興味なら今のところは合法らしい成分のものなので放置を決め込むけれど使う人間が俺になるなら話は別だ。
 親衛隊の人間たちに水鷹が俺に媚薬を盛りたいと話を持ちかけたという報告がある。
 セックスドラッグの情報は知っていても手を出さなかった人間が水鷹に支持されたという大義名分で購入して俺を同行するのに使うのは簡単に想像ができる。自分で飲んで俺に迫ってくる姿も想像できる。
 
 学園内にあるというだけで人の手を渡り最終的に悪用されるのが分かり切っているのに水鷹のことだからロシアンルーレットのゲームぐらいにしか思っていない。俺が飲んだら「藤高アタリ引いたね」ぐらいのノリだ。
 
 重々しい雰囲気もクスリを手に入れた人間の気持ちやクスリを飲ませた人間の思いなんかも水鷹は知ったことじゃない。
 水鷹が俺の最大的として立ちはだかりすぎていて世界の厳しさを思い知る。
 
 
「服を脱いでもらえる?」
 
 
 本当は口にしたくない言葉だろうと思うと前会長には申し訳ない。
 気絶しているのかピクリともしない転入生に一瞬視線を向けるが俺は上半身を脱ぐ。
 
 
 人間は一つの感情だけで行動することは難しい。
 瞬発力として起爆剤になるのは怒りだったり悲しみだったりと一つの気持ちかもしれないが時間が経てば経つほどあいまいになっていく。
 そして、自分を正当化したくなる。
 人の悪口を言うのは相手が悪いから。悪口を言われるような相手がいけない。指摘をしてやっている自分こそが正義である。とそういう気持ちを高めるために相手を低い位置にすえようとする。
 
 尊敬する人間から凌辱の対象。
 
 俺への愛情を失えないがゆえに辿り着いてしまう境地。
 水鷹の所有物のようにされてしまう俺を見ないために俺を犯す。
 
 脅して言うことを聞かせるという意図もきっとあるだろう。
 水鷹から引き離すための糸口を彼らはこれまでずっと探り続けてきた。
 どんな事件を前にしても水鷹と行動を共にする俺に愛想を尽かすのではなく、今まで着いてきた親衛隊たちを蔑ろにしたつもりはないけれど甘く見ていたのは確かだ。
 嫌いになったら離れればいいのに彼らはそれが出来ない。
 
 だから、前会長が総意の体現をしてくれている。
 誰かが動くよりも先に前会長が俺を襲ったらどうなるのかサンプルケースを計画している人間たちに示そうとしている。
 
 瑠璃川の名前を笠に着た水鷹が卒業前に前会長を退学にさせたり、俺が転校したりというアクションをとれば不特定多数の犯罪行為は未然に防がれる。前会長の行動が公にならなくても同志だと認定されている犯罪者予備軍たちは察するだろう。
 
 人のふり見て我がふり直せという有り難い教訓をセンパイとして前会長は見せようとしている。
 ある種の生け贄に彼がなる必要はないけれど、彼以外で先陣を切ることを納得される人間もいない。
 
 俺は親衛隊の中で派閥争いによりお互いをにらみ合うことで動かなくさせるように工夫していた。
 それは微妙なバランスだったので水鷹のゆさぶりで崩れてしまっている。
 俺のために慎ましやかでいようとする気持ちを水鷹に笑われてそのままでいられない気持ちはわかる。
 なにか行動を起こして自分の気持ちは水鷹にバカにされるようなものじゃないと訴えたくなる。
 
 それで、俺を会長にする計画または強姦作戦という分岐はおかしい。
 
 
 上着を脱いだところで気づいたが、下がつい履いてしまったふんどしなのもおかしい。
 目の前にいないのに水鷹は主張が強すぎる。

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