犬も朋輩、鷹も朋輩なんていう戯言

 オレは人の美醜をあまり気にしない。藤高には面食いだと言われるけれど抱くだけなら顔を隠してヤればいいし、そこまで酷い見た目の人間に遭遇したこともない。
 
 オレの親衛隊ってことになっている目の前の小奇麗な生徒たちは容姿が一定以上の水準かもしれないけれど藤高には束になっても敵わない。「いつも済まないねえ」って言って「それは言わない約束だろ」って返してくれないし、ここでボケてとかここでツッコミ入れてっていうタイミングで何もない。会話にも切れがない。一緒にいても飽きてしまう。藤高の切返しの鋭さを真似ようとしてただの無礼者みたいになるやつとかも勘弁してほしい。
 
 藤高は雑に見えて繊細だし、オレのことを見下しているようでいて尊敬してくれているし、バカにしながら愛してくれる。
 愛のあるいじりとただの罵倒は全然違うのにそれをわかっていない奴が多すぎる。オレがどれだけ藤高に「まったく仕方ねえな」って言われたいのかわかっていない。
 
 バカなことをするな、無駄なことをするな、非効率的に動くな。
 それらはもっともかもしれないがオレにとって一番重要なのは藤高が味方でいることだ。
 この世のすべてを敵に回すような状況に陥ったとしても藤高が自分の味方でいてくれるんだと知ることが出来ればそれで全部が報われる。何を犠牲にしようがその事実があれば幸せで満たされるんだから大成功。
 
 それなのにオレを正座させてくる目の前の彼らは口をそろえて藤高に迷惑をかけるなとか藤高の甘えるなという。
 何を言っているのかさっぱりだ。
 オレはこの世界の誰よりも藤高に甘えて迷惑をかけてわがままを言いまくりたい。
 藤高がいやがるなら自重するけど他人から注意を受けるいわれはないし、それに従わないとならない理由もない。
 
 親衛隊の連中はそろって物わかりが悪い。
 オレが藤高に食堂でケーキのイチゴを分けていたら藤高のことをイチゴ好きだと誤解するような人間たちだ。
 藤高はイチゴは好きでも嫌いでもない。
 でも、ケーキの上のイチゴは好きだからオレが食べるか聞くと口を開けてくれる。
 比較的、ケーキの上のイチゴは酸っぱさがあるからだ。
 クリームが甘いので飾りのイチゴはそれほど甘くない。
 パフェやタルトなんかでイチゴがメインだとイチゴは甘くなるけれどケーキの上のイチゴはそうでもない。
 
 藤高はイチゴもトマトもリンゴもブドウもミカンも酸っぱいのが好き。
 
 甘すぎるだけのパンチのない味よりも口に入れて甘さの中にも予想外な酸っぱさが潜んでいるのが評価が高い。
 冬にミカンをダンボールで買って甘いのがダンボールの中にいくつあるのか探すのが好き。
 甘いをの見つけたら分けてくれるし酸っぱいのを見つけたら分けてくれるし苦いのを見つけたら押しつけてくる。
 
 そういう藤高を何も知らないでオレからイチゴをもらっているから藤高をイチゴ好きだと思い込んでイチゴと生クリームのサンドイッチとかイチゴのミルフィーユとかを持ってくる。
 優しいから藤高はひとくちぐらい食べることがあるけれど大体オレが消費する。
 藤高は生クリームがそんな好きじゃない。だから、食後にケーキを食べることがないのに気づかずに差し入れをしてくる。オレは無神経だとよく言われるけれど藤高に関しては鈍感じゃない。
 
 
「藤高さまが親衛隊を解散なさるとおっしゃっているんですけれど、会長はどうお考えですか」
 
 
 オレを正座させた張本人である先輩が仁王立ちで聞いてくる。
 藤高の言動の理由がオレだと思われるのが嬉しくて笑ってたら「聞いてんのか」と低い声で言われた。
 しみじみと男を感じさせるけれど女も同じ感じになるので性別は理由にならない。
 藤高の前だと結構声が高いのにオレにはこの対応だ。
 ギャップが気持ち悪いので藤高の前とオレの前で反応が変わらない相手を選ぶようにしたら男女関係なく大和撫子タイプが好みだと広まった。もちろん出しゃばらず都合のいい人間は好きだけれど一番は藤高だと当然のことなので主張したけれどいつもはいはいと言われて流される。もう少しオレの愛を受け取ってもいいと思うけど藤高は超絶クール。
 
「クールビューティーって最高だよね」
「藤高さまをほめてるのか、こちらの話を聞く気がないという意思表示なのか分かりかねます」
「だから藤高は合理主義って話。リストラされたんだろ? 無駄なものは首切りが当然だ」

 煽っていくスタイルは将来的に賢くないと兄に言われたけれど物わかりの悪い人間を見るとそこに触れたくなる。理解力の低さを眼前に突きつけてやりたい。悪趣味だと藤高は言うけれど知らない癖に分かったように語られると腹が立つ。とくにオレに藤高を語る人間は嫌いだ。語っているのではなく騙っていることに気づいていない。
 
「おまえら全員、藤高に必要ねえーって、藤高に言われたんだろ」
 
 正座しているオレに見下されるのはいったいどんな気持ちなのか興味がある。味わうことは永遠にないだろうからこその興味。
 
「お前がっ」
 
 誰かがオレに飛びかかろうとするのを誰かが止める。
 こんなことは今に始まったことじゃない。
 誰もがオレを嫌うのは藤高を好きだからこそ。
 
「藤高さまを慕っている僕たちを藤高さまから距離をとらせるのに藤高さまを使うなんて残酷なことをしますね」
 
 藤高さまと繰り返す相手を鼻で笑う。
 バカみたいだ。藤高は好きで藤高さまをしているわけじゃない。
 そういった振る舞いが安全で安心するからだ。
 無意識に無自覚に無慈悲にも藤高の弱さも頑固さも認めないで強さと決断力と絶対性を欲しがる。
 
「セックスの相手は藤高がするからおまえらいらないし。……あぁ、もちろん瑠璃川水鷹とか会長の親衛隊に所属したい人は残ってもらっていい。藤高もそう言ってただろ。ここにはそのタイプはいないだろうけど」
 
 笑うオレに室内の空気は悪くなる。
 二十人ほどの瑠璃川水鷹というオレの親衛隊に所属する人間たちはオレのことを何とも思っていない。
 むしろ邪魔だと思ってる。
 
「藤高へのご機嫌取りのためにオレに尻尾を振るのはいやだろ? いいじゃん、さよならしよ」
 
 親切だと思ってほしい。
 親衛隊にいれば藤高に近づけるとか以前のように藤高と肉体関係を持てるという幻想を打ち砕いてやるんだから、これは優しさだ。
 
 親衛隊を解散というよりは規模の縮小をオレは藤高に提案した。
 もう夜の呼び出しは確実にないので彼らをキープしている意味がない。
 オレ以外との瑠璃川との繋がりで親衛隊に入っている人間とかオレか藤高を尊敬しているような人間は害がないので残っていてもいいけれど、藤高に触れたくて仕方がない、藤高に触れるのが当然だと思ってる彼らとはここでさよなら。
 
 彼らは藤高を好きだという。
 言葉で態度でそれは聞こえてくるけれど、でも確実にオレよりも下だ。
 藤高への愛は絶対にオレの方が持ち合わせている。
 
 オレはどんな藤高も好きだけれど彼らは自分の理想とする藤高じゃないと納得しない。
 それを見ると幻滅する。藤高への愛情が低い人間が藤高への愛を語るのが気持ちが悪い。
 藤高に褒められて慰められて優しくされるっていうご褒美のためならなんだって出来そうなものなのに半端な覚悟しかない人間が多すぎる。中途半端な気持ちで藤高を愛してるなんて言わないでもらいたい。
 
 オレの中で及第点をギリギリ与えられるのは藤高が食事を作るのを頼んでいる数人ぐらいだ。
 
 彼らはオレの足を舐めるし床を舐めるしどんな体勢でも泣き言を口にしない。
 オレへの憎しみなんかはあまりなく通過点だと思っている。
 藤高に「お疲れ様」って労わってもらうためだけに何だって出来る彼らはこの部屋にはいない。
 オレを糾弾したところで藤高に褒められることがないと知っているからだ。
 
「前も言ったけど藤高が好きなら自分がどう立ち振る舞うべきかわかるだろ」

 立ち上がったオレに「お前の犬になれって言うのか」と聞こえてきた。
 全然わかってない。
 犬以下になれば藤高はそこまでするなんてすごいと褒めてくれるだろうに不完全で未完成で成長不足としか言えない愛を掲げて恥ずかしげもなく誇る姿は滑稽ではなく醜い。
 
「愛情に見返りを求めようとするなよ。好きなら好きなだけで十分だろ?」
 
 藤高に褒められたがるのも藤高に認めてもらいたがるのも藤高を好きだからだってわかるけれど、藤高から何も与えられなくなったぐらいで藤高への愛が冷めるような出来そこないたちに愛を語られたくない。
 
 オレの愛が負けるかもしれないぐらいの気持ちの大きさを見せつけられて初めて愛の言葉が重みをもつ。
 それをわからずにオレに抗議してくるからおかしい。
 狂信的な分には対戦者としておもしろいけど未成熟な状態でオレと張り合おうとするのはやめてもらいたい。時間の無駄だ。
 
 もっと愛の奴隷になってもらわないと踏み台にすらならない。

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