十一

 風呂場の縁に腰かけた水鷹の足の間に身体を入れる。
 見たことはあっても鼻先で拝んだことはない他人の男性器。
 
 乱交状態になっても俺にまとわりつくのは多くて二人ぐらいなものだ。水鷹は人間プレス機にかけられるときもあるが俺に対して大勢が押し掛けてきて多勢に無勢ということはない。水鷹がけしかけてこなければ。
 
 そして群がってくる二人も基本的に女だけで男はいない。
 
 学園内で男しかいない場合は俺と水鷹と穴役の三人になる。
 穴を二つや三つ揃えたりすることはない。
 これは俺の手間の問題だ。準備をするのは俺なので複数を同時に相手をするのは面倒くさい。
 一晩で穴は一つ。
 どうしても水鷹が別の穴を試したくなったら交換だと決めている。
 
 男同士の修羅場なんていう頭痛しかもたらさない生産性のないものと直面したくない。
 
 水鷹は自分の快楽優先ではあるが俺のこのやり方に文句を言ってきたことはない。
 何か言われたら言われたで調整してやっているんだからそのぐらいは妥協しろと言い返すところだが、どうしても複数でのプレイがしたいと思ったら俺は折れてしまうかもしれない。
 今のところ、水鷹はそこまでわがままじゃない。
 だから、親衛隊という穴の中で水鷹の性器と接触することがあっても直視するタイミングはなかった。
 男の股間をのぞきこむとか変態のやることだ。
 
「やっぱお口はNGですかね。事務所的に」
「どこの事務所だ」

 やめやすいようにか水鷹が茶化して聞いてくる。
 今なら引き返せる。
 
 複数で性的なことをするのと二人だけですることは水鷹の中で同じであっても俺の中で意味が違って行きそうで怖い。
 風呂場までしてきてしまった指輪と同じだ。するべきじゃない希望が生まれている。
 期待を押さえつけていると自分の下半身という現実から逃避も出来るので一石二鳥だが逃げ切れるわけもない。
 これからさき、もっともっともっともっと俺は水鷹が欲しくなる。
 俺の愛に見合う分だけのものを水鷹から感じ取りたくなってしまう。
 それは友情からも愛情からも遠い打算的なもの。
 見返りを求めないでいた時はまだ綺麗な気がしても目に見えて欲しがり始めると醜悪になる。
 
 女のかわいいアピールにうんざりした気持ちになるのは決められた対応を求められているからだ。
 アピールされたらかわいいと言うしかなくなるその不毛さが気持ち悪い。
 だから俺は水鷹にしてやっているとは言わないようにしている。無意識に出てしまうところもあるがそれでも愛されたいから水鷹のために動いているわけじゃない。喜んだ顔が見たくて、喜ばせたくて何だってしてやりたくなった。
 
 このままで行くと俺と水鷹の力関係に亀裂が生じる。
 けれど、千載一遇のチャンスでもある。俺の手腕によっては今後は他人が必要なくなるかもしれない。
 そこまで頑張れるかはわからないが口ならまだどうにか高ポイントをとれそうな気がする。
 
 押し倒しているところから見て水鷹は俺を抱く予定でいる気がするが前立腺マッサージによる勃起機能の回復を考えているんだろう。
 自分の気持ちよさというよりも俺の身体の様子を見ている。
 医者から何か言われているのかもしれない。
 
 性器を目の前にしてなおも動かない俺に「あのぉ」と気弱を装った声を水鷹があげた。アホっぽい。

「藤高さま友の会としては無理強いの予定はありませんけれども? どーいたしやしょう」
「ちょっと水鷹の膨張率を思い出そうとしてただけだ」
「たしかにジュニアはまだマックスサイズには到達してませんが、案ずるより産むがやすし?」
「ギャルに説教される優等生の気分になったわ」
「難しく考えすぎじゃない? ウチらみたいのでもこーして元気に生きてるし? もっと適当にしないと早死にするよ、ストレス社会だしさ? マジ、もっと適当でいいっしょ? ラブアンドピース的な?」
 
 どこかの街頭インタビューでありそうな、なさそうなテンションのギャル真似をしてくれた。
 始終語尾が上がっていて疑問調なのがムカついたので水鷹の性器にくちびるで触れる。
 洗ったこともあって変なにおいがすることはない。
 
 生でするのではなくゴム越しにすればよかったと若干の後悔が芽生えたが始めたからには止まらない。
 すこし上を向くと水鷹は顔を押さえていた。
 目隠しなんだろう。
 
 俺なんか見ないで想像上の好みのタイプにやってもらっていると思ったほうが抜けるに決まっている。
 先は自分でそういう風に誘導した。だから、覚悟はできていた。俺が水鷹にとって対象外だとわかっている。それでも心がきしむらしい。多感な年ごろは面倒くさい。
 
 目をふさいでいたら耳はふさげないだろうと音を響かせるように性器にキスをしていく。
 リップ音がするたびに水鷹の腰がわずかに揺れる。
 刺激が足りないのとこの先に対する期待感があるのがわかる。
 
 竿をしごきながら先端を舌で舐めたり吸ったりする。
 先走りで濡れ始める先っぽを音を立てて吸い上げてみると押し殺した声がした。
 きちんと気持ちがいいらしいので俺は舐めたり吸ったり手でこすって刺激を続ける。
 
 咥えこむ動作を避けていると気づいたのは水鷹に「もうムリっ」と逃げられてからだ。
 風呂の縁から湯船に尻から落ちた水鷹はそのまま達した。
 
「ダイナミックなイキ様だな」
「……っ、うぅ、ざまぁって思ってそうな見下し全開の顔してるんですけどー」
 
 深さがあるわけではない浴槽なのでバタバタと暴れながら水鷹はバランスをとる。
 水鷹の精液を舐めることになるのかどうかをそれとなく悩んでいた俺はバカみたいだ。
 
「おしり痛いです」
「立てない?」
「って、ほどじゃない」
 
 尻もちをついたような状態なので急に動かすのもよくないと俺は湯船に入浴剤を入れた。
 
「ゆっくりしてろ」
 
 そのまま自分の髪と身体を洗って風呂場から出ていこうとしたら悲鳴を上げられた。
 絹を裂くような悲鳴として声のサンプルに使用できそうだ。
 
「なんで出ていくの、……行くのですか?」
「髪の毛も身体も洗ったから」
「湯船で体を温める気持ちは?」
「ない」
「オレとイチャイチャする気持ちは?」
「ない」
「その心は?」
「さっさと眠りにつきたい」
「お疲れ様です」
 
 引き留めたい気持ちをありありと滲ませながらも水鷹は手を振った。
 変なところで聞き分けがいい。
 しょんぼりと肩を落としている水鷹を放置することが俺に出来れば苦労はしない。
 
 溜め息をひとつして浴槽のふたを完全に外して水鷹と向き合うように湯船につかる。
 一般生徒と違って生徒会長の部屋の風呂は勝手に増築されて大きめの浴槽になっている。
 男二人が入っても暑苦しくない程度の広さがある。
 水鷹の足をくすぐるように握ると嬉しくて仕方がないという顔で笑いかけてくる。
 構われて幸せだとでも思っていそうなお手軽なやつだ。こんなのだから水鷹のわがままを憎めない。
 
「まったく藤高ってばやっさしぃー」
「水鷹だけにな」
「急なデレに死ぬ」
「死ね」
「急なツンに死ぬ」
「生きろ」
「藤高信者として楽しく生きるしかない衝撃っ」
 
 変なテンションで「あー、うー、わー」とうるさいので足を伸ばして水鷹の腹を蹴ろうとしたら性器に触れた。
 あきらかに勃っていた。一回出した程度じゃおさまらないらしい。下半身がやんちゃすぎる。
 
「これをどうにかしたくて呼びとめたのか」
 
 足で下から上にこすってやると「マズイってば」と言われた。
 何のことかと思ったら湯船が汚れることを気にしていた。
 入浴剤でお湯は濁っているのに意外に潔癖だ。
 
 面白くなったので近づいていって握りこんでやる。
 
「ダメ、ムリだって、このシチュはやべーって」
「はあ? さっきと何が違うって?」
「精神安定のために乳首を吸わせてくださいな」
「いいけど、質問に答えろよ」
 
 俺が膝立ちになって水鷹の顔のあたりに胸を押しつける。
 息を荒げながらちゅぱちゅぱと音を立てて乳首に吸いつく水鷹は異様だったが悪い気はしない。
 他の誰かの胸に顔をうずめているわけじゃなく俺の身体に夢中になっている。気を抜くと顔が笑いそうなので水鷹の頭を抱え込む。
 今の表情は絶対に見られちゃマズイ。
 右ばっかりもなんだから左の乳首も与えると新鮮だったのか吸いつきがいい。
 しばらくすると気が済んだのか水鷹は顔を上げた。
 そのまま水鷹の足の間に座る。
 窮屈だが我慢できる範囲だ。
 
「やばい、やばいよぉ、マジでこのままイッちゃいそう」
「なんだよ、足コキによわかった?」
「そんな楽しそうにやられたら誰だってムリだって」
「ライトM的な?」
「ちげーますです!! オレの愚息は藤高が楽しそうにしてるといつもビンビンになんのっ」
「愚かを自称するだけあって残念な息子を持ってるな」

 俺の発言が気にいらなかったのか水鷹はいじけた。
 面倒なので無言のまま手でしごいてやると身悶えた。
 どのあたりが気持ちのいいポイントなのかわかってきた気がする。
 
「キスして。チューしよ! チュー!!」
「あまえんなよ」
 
 俺に頭突きでもくらわせそうな勢いの水鷹とキスをしながら手の速度はゆるめない。
 舌と舌が絡み合って肌と肌も触れ合って気がつけば水鷹に抱きしめられる形になりながら湯船に浸かっていた。
 
 湯船の中で果てた水鷹は俺に低姿勢で謝ってきた。
 どうも俺に怒られると思ったらしい。
 普通のときにお湯を汚していたら怒るがこういうときは別だ。
 
 キスをしながら湯船の中でイクのが気にいったのかその後に六回はリクエストされた。
 水鷹に甘々だと自覚のある俺でもいい加減にしろとぶったたくレベルに自制心のない絶倫ぶりだ。

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