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  042 違和感に納得がいったかもしれない


 Bが帰ってA兄さんと二人っきり。
 ここではっきりしておかなければならない。
 
「えい兄さん……聖石って」
「いま、両方とも入っているはずだが、確認するか」
 
 心持ち嬉しそうに見えるA兄さん。ちょっと待て。また弄られて俺がへろへろふにゃんとなるんだろ。何度も同じ手は食わない。身体が熱かったのはマシになってるから現状維持で問題ない。服をめくろうとするA兄さんの手を押える。手を握り合う格好になってこれはこれで何かおかしい。
 
「手入れとかいる?」
「とくに問題ないな。……吸収したものが何処に行くのか気になるか? あえて言うと大地か??」
「この石自体が何かしてるんじゃなくて移動させたりする道具になってるってことか」
 
 一人納得して俺は頷く。石が膨らんだりとかしたら俺はどうしたらいいのか、そんな心配をしていた。Dもベルトルも聞いても絶対に教えてくれない。あの二人にはそういった愉快犯的な空気を感じる。A兄さんは伝え忘れるとかうっかりするボケボケさを感じる。
 
「入れているのが分かりにくいか?」
「気にならなくてちょうどいいよ」
「もう少し大きなものを用意することも出来る」
 
 俺の穴の拡張計画を推し進めようとするのやめて。お尻も尿道も入れる場所じゃなくて出す場所だからさ!!
 
「慣れておいた方がいいだろ」
 
 最終的に俺がもっと大きいものを入れる予定みたいな言い回しはやめて!
 いま握っているA兄さんの手というか指が俺の中を責め立てていたことを思い出して赤面する。熱が失せたはずなのに意識すると暑くて仕方がない。混乱している俺にA兄さんはキスをしてくる。どうしてこのタイミング。なし崩し的に流れていきそうなのを何とか踏みとどまる。
 
「キスは特別な時にしかダメっ」
 
 もっと言い方がある気がするけど俺の知能ではこれが限界だった。何でもない日おめでとうとか言われて誕生日以外の毎日キスされたらどうしようかと思ったけどA兄さんは物わかりがよかった。「彗星の嫌がることはしない」と言われた。これで罪悪感を覚えてしまう俺はこの世界に染まり過ぎだろ。
 
 
 
 夕方になってベルトルが帰ってきた。Dは泊りになるらしい。
 
「何かおいしそう」
 
 夕飯として用意してもらったのはNOTパスタ。やったね!
 みずみずしい果物とサラダと謎スープ。パンが欲しいと思ったけれど人の家でワガママは言わない。思うだけ思うだけ。
 
「どれだけ話を聞いたのか分からないけど……すぅちゃんが知っている日本の動植物とここの生態はちょっと違うんだよね〜」
 
 まあファンタジーな異世界だから……ってそうじゃないのか。もしかして。白雪姫の話からするとここって異世界じゃないのか?
 
「ちょっと違うけれど大幅に違うわけじゃない。その理由の一つが異世界からの訪問者の知識だ。失われた文化の穴埋め、必要な知識の補強」
「えい兄さん、昔は異世界からの人間とも仲良くやってたってこと?」
「彼らを王にして知識を広めることは有益だったが、彼らはあくまで訪問者……異邦人であると理解しているべきだった」
「すぅちゃんはベルトヤカの毒に浸ってるから俺たちのものだけど他は違うからね」

 繰り返される警告のような俺以外の一緒に来た人間への扱い。心臓が痛くなる。
 
「……なあ、ここって未来の地球にあたるのか?」
 
 昔の映画であったらしい猿に支配されていた星を知らない星だと思っていたら未来の地球でしたっていうネタ。血の儀式で記憶を共有化しているという以外にも、どうにも違和感があることが多かった。
 俺たちの時代に普通にいるらしい永遠に生き続ける存在がこの世界にもいるような言い回し。それは俺の世界とこの世界が地続きであるような言い方だ。
 
「そうとも言えるし、違うとも言える。未来はいつでも枝分かれするもので彗星の世界の進む先がこの場所へ到達するかは誰も分からない。世界は滅びては再構築する。我らの神が負けたら世界は一気に衰退する。その際にどうしても文化は失われてしまうが旧時代の遺物として残されるものはある。ただそれもまたいずれは風化する。残して伝える人間がいなければ技術も記述もなくなるのは仕方がない。だからこそ知識は重要だ」
 
 ファンタジー理論は脇に置いて、俺は俺にとって重要な話を切り出した。
 
「えい兄さんがリーゼントをしてるのは王様の知識……からなわけないよね、ってことはこの世界ではリーゼントはどう伝わってるわけ? 野菜みたいに独自な進化を遂げたの?」
 
 出会った時からツッコミを入れたくて仕方がないA兄さんの髪型。結構乱れることが多いリーゼント。この際リーゼントなどやめてしまえ。髪型をピシッとしたいならオールバックが最適だろう。
 
「りーぜんと、ってなあに?」
 
 不思議そうなベルトルにあれ?っと思う。リーゼントっていう名称を使っていないんだろうか。いや、日本の知識あるなら分かるだろ。ヤンキースタイル以外の何者でもないじゃんか。
 
「えい兄さんの髪型のこと」
 
 指さして告げる俺にベルトルは首を傾げて最終的に壁際の鏡を見る。何かあるのかと思ったら鏡を叩きだした。ノックするような軽快なリズムというか長い。それで思ったのがモールス信号という存在。ツーツートトトトとかいうやつ。知っているだけで解読できない俺は探偵にも救命隊員にもなれない。助けを求めて足踏みとか指でテーブルをトントンすることで伝えるとかスパイじゃなければ無理。
 
「でぇーくんに連絡取り中なう」
 
 なうが通じるのにリーゼントが通じないってどんな世界だ!!
 鏡よ鏡よで会話ができるとかファンタジー。未来の地球案はないわ。どんなに頑張ってもこの世界にはならない。ワイバーンのWが機械音していたから実はサイバーな感じだと思っていたけれどそんなこともなさそうだ。というか滅びては再構築しているなら機械文明の時代があってその時の生き残り?
 なんだか少ししっくりくる。この屋敷の中だけでもアンバランスなものが多い。例えば床が大理石だったり絨毯だったり様々なのはその廊下近くの部屋で暮らしていたベルトヤカの記憶がその文化を基準にしているから、とか。
 記憶がグチャグチャとか兄弟仲が悪くなった原因とか本のたとえ話とかから考えてスッキリしてきた。文明が何度か滅びたならベルトヤカの中で言うことが違くなっていて当たり前だ。
 
 八尾比丘尼、人魚伝説が伝わらない文明も当然あっただろう。語り継ぐものがいなければ消えてしまう。それなのに次の次の文明において常識として語られる。
 
「どうして文明の崩壊と再構築があるって分かってるのに自分の知識と兄弟の知識が噛みあわないことにケンカするんだ?」
 
 俺の呟きにA兄さんがポンッと手を打つ。
 
「そう言われるとそうだな」
「軽っ。さっき出てきた事実って結構重要なことだよね。神様の話よりも重要事項だよ?」
 
 栄えた文明が持っていた技術がオーパーツと呼ばれる状態になるのは俺でも知っている。当時の科学技術では無理だと勝手に決めつけられていた様々なことが覆されて過去の歴史が新しくなる。
 
「俺たちにとって常識過ぎるというか意識するようなことでもないというか」
「なんでケンカしといて原因を探らないわけ?」
「すぅちゃん、違うんだよ〜。探ろうにもみんな分からないんだ。お互いに分からないことが分からないんだよ」
 
 そうなのかもしれないけど抜けているようにしか見えない。実際に抜けているのか。アンバランスさやちぐはぐさの理由はわりと納得できてスッキリした。邪教についてはよくわからないけどベルトヤカの記憶の話は今はない文明や文化を残すっていう意味で生きた歴史書ってことなんだろう。
 
「あ、でぇーくんと繋がったよ。いまは、えるちゃんのところに居るんだって」
 
 噂の予知能力者か。話せるかな。

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