宗教に関して考えているとＡ兄さんが俺の頭にアゴを乗せてきた。
　ちょっと痛いけど密着感が高まって少し照れくさい。
　
「彗星には中世における黒魔術、降霊術とかサバトの印象が分かりやすいかもしれない」
「つまり変な儀式にＬは自分から巻き込まれに行って酷い目にあったけどＬ本人としては結果が出せて良かったって話？」
「意外に彗星はドライだな。Ｌに関して哀れみは不要だから正しい判断だ」
　
　Ｌに同情しようにもＢが「ぐちゃぐちゃにされたＬかわいいよＬ」って言いながら目の前でオナニーしている異常事態だから感情の置き場がない。俺がドライだとかクールだとかそういうことじゃない。
　Ｂの醜態を前にして遠い目になって、それに本人が分かった上で飛び込んで結果的に欲しいものが得られたなら、それでいいような気もしてくる。
　残された人はもちろん苦しいけど本人が満足してるならハッピーエンドって思っておくもんじゃないかな。
　
「俺が切り刻まれたりっていうか邪教に捕まる予定があるの？　予知能力ってことは……え、いつ？」
「目を離すと……だから、目を離さなければいい」

　Ａ兄さんがギュッと抱きしめてくれる。
　やっぱり絆されているというか、ときめくのは目の前に触れたくもない変質者がいてＡ兄さんがいる周りが安全地帯になっている安心感から来る吊り橋効果？

「アァ、……ハァハァ……、ベルトヤカの体液を受け入れてるなら座標は固定されてメモリリークで連れ去るのは無理だから、この家で飼い殺しになっていれば安全……けどもさぁ、それだと病原体を駆逐できねえーのぉ。オレは殺して殺して、殺してやりたいわけさ？　Ｌの中を味わった奴を」
　
　射精しないようにチンコの根本を押えて身体をビクビクさせていたＢ。
　正直キモい。もう本当にムリ。
　敵討ちをするっていう話なのに真面目に聞けない。
　
「Ｌは眉毛ないし目つき悪いし考えなしですごくかわいいけど人形とか機械みたいになっちゃって昔の突くとツンツンガオーな態度がなくなってオレは淋しさで絶海の孤島気分を満喫じゃん？」

　Ｂの方言なのか微妙な口調はなんなんだ本当。

「彗星、分かったか？」
「ＢとＬの二人の関係がＢＬだというのは分かった」
　
　ＢＬ、すなわちボーイズラブ。ボーイな年齢かは知らないけどＢがＬを好きなのは伝わって来た。愛が痛いしキモチワルイぬるぬるした感じなのはこの際、置いといて俺の今後の話だ。
　俺が邪教に狙われるという想像が現実になるかはともかく捕まったら肉体的にも精神的にも酷いことをされる場所に連れて行かれるらしいことが確定した。
　引きこもり万歳。ってか、俺はペットになって良かったってことだよね。直感が冴えわたった結果だね。
　
「餌としての貸し出しを要請しちゃうけども、長男よ、えーでしょ？」
「彗星は嫁にはやらん」

　Ａ兄さんは急にお父さん？
　ってか餌イコール嫁って連れて行かれたら犯されるって意味でかな。考えたくないわ。
　それなのに邪教に染まる女性が多いってなんでだ。
　男にエッチなことをしたい女性の集まりなのかと一瞬期待してしまったけれどそれなら身体を刻まれたりはしないはず。ベルトヤカだから酷い目にあわされたんだろうか。
　
「記憶を吸い出すために解剖――」
「勝手なことを言うな。実験動物ならそちらに送る。彗星がここに居る意味を知れ」
　
　解剖することで記憶が吸い出せるのはそういう技術があるのか比喩なのか。
　いやいや、実験動物じゃなくて愛玩ペットですから。そういう目で見ないで。
　
「でもでもぉ絶対に病原体が釣れるってばよぉ」
「病原体を釣り上げても彗星に何かがあったら意味がない。俺は記憶のパズルを完成させたい」
「一網打尽に皆殺しにしちゃえばゆっくり作業できるでしょーがぁ」
「お前のしたいことはただの私怨だ。一人でやっていろ」
　
　あっさりバッサリ取り付く島もないＡ兄さん。
　俺のことを思ってくれているのだというのは分かる。
　何だかこう、じんわりと胸が熱くなる。
　
「彗星の安全よりも大切なものはない。Ｌが警鐘を鳴らした意味が分からないわけじゃないだろ」
「放っといたらパックン……でしょ。うーうー、かわいそうだから消毒に気持ちいい事してあげるから百人ぐらいに犯されてきて……ぐへぇ」
　
　Ａ兄さんがＢの股間を踏みつけた。
　嬉しそうに見えるあたりＢは露出狂のドＭなんだろう。引くわ。
　
　
　俺はＬに感謝しておいた方がいいんだろう。
　自分と同じような状況に陥らないようにってＢに伝言をしておいてくれたんだから。
　
　昨日の時点で俺がこの世界に来ることをＬは知っていたんだろうか。
　予知をいつの時点で行ったのか聞きたいところだ。
　心が壊れているならコミュニケーションも取れないかもしれないけれどお礼がてら、話を聞きに行きたい。
　心がなければ逆に情報が引き出しやすいかもしれない。
　

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