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  024 火内優成と俺と夢と朝


 
 ペンと呼ばれ続けてうんざりしていた俺のことなど火内優成は知らない。
 呼ばれない「彗星」という名前を恋しがってたことを知りもせずにペンペン言うムカつくタンポポヘッド。
 あの髪の毛をむしり取ってやったらスッキリするだろうけどスキンヘッドでも火内優成は格好いいかもしれない。
 髪の毛がないと顔の作りが前面に出るから負けた気分になりそうだ。
 
 
 夏村流水の静かに流れる水のようなイメージとは違った騒がしい変人な火内優成。
 リーダーシップを取ることが義務付けられているような夏村流水と一人で好き勝手にやっていく火内優成。
 独特なテンポで周りを翻弄しながら誰も火内優成を責めないし嫌わない。
 そういう不思議な人間だった。単純に顔や家柄の問題じゃない人柄からして憎めない。
 いろいろとズルい。
 
 夏村流水が従いたくなるタイプのトップなら火内優成は支えたくなるタイプなのかもしれない。
 いろいろとズルい。
 
 そのためか俺が火内優成の犬という不愉快極まりないポジションに置かれてから色んな人に優しくされたり構われたり庇われた。
 誰でも気軽に俺のことをペンと呼んで頭を撫でたりお菓子をくれる。
 火内優成がいなかったらなかっただろう学園内の謎な空気。
 
 誰かと何かをしていても火内優成は俺を見かけると飛んでくる。
 実際に二階から飛び降りて俺の頭を撫でに来た。
 火内優成をバカじゃないかと思いながら何処か嬉しいと思ってしまった俺が一番のバカだ。
 もちろん喜んでみせたことなんかない。全部火内優成が勝手にやったことだ。
 俺が頼んだことなんか一度だってない。
 
 自分も犬になりたいなんていう変な火内優成ファンも現れたけど火内優成は俺以外を俺と同じように構ったりしなかった。
 迷惑で、面倒で、冗談じゃないと思っていたのに俺の生活の一部に染み込んだ火内優成が遠のいていた数か月。
 蜜鳩が転入してきてから学園内は少しだけ変わった。
 変わったのは俺なのか火内優成なのか学園全体なのか今になっては分からない。
 
 蜜鳩と異世界の門を探していたその時期、俺は火内優成とほとんど接触を持たなかった。
 元々、赤滑くん以外の友達もいない俺は火内優成が絡んでこなければ静かなものだ。
 定期的に骨の形のクッキーや犬絡みのグッズを色んな人に貰ったりするものの火内優成を抜きにして人に取り囲まれたりしない。アイツらは結局、俺じゃなく火内優成に近づきたかっただけだ。俺をダシにして火内優成と話をしていた。そりゃあそうだ。俺には何の魅力もない。普通に生活するのにいっぱいいっぱいな凡人だ。
 
 内心愚痴ばかりの俺だが犬だと思われていることへの苛立ちを火内優成自身にちゃんとぶつけていないかもしれない。火内優成に意見すると周りが怖いと感じることもあったけれどそれ以前に俺を犬だと思わなくなった火内優成がどんな反応になるのか恐れていた気もする。
 
 笑顔で俺の頭を撫でるのは好意百パーセントだし、一緒に食堂でランチをとるのも俺のことを気に入ってくれているから。
 真っ直ぐな感情が落ち着かなくて、分かりにくい。
 火内優成は俺をどう思っているのか。それはずっと気になっていて聞きたくて知りたくないこと。
 
 
「お前にとって俺って犬なのか?」
 
 
 その一言を口にする勇気が俺にはなくて内心でウンザリするだけだった。
 火内優成がどんな反応をするのか想像できない。
 
「ペンはかわいいなぁ」
 
 愛おしいものを見る目て俺を見るな。
 撫でてくるな、やめろ。
 火内優成の顔が近づいて来る。
 嘘だ。こんなことあるわけない。
 俺が犬であることを真っ向から拒絶したり火内優成の内面に踏み込むことがないように火内優成もまた俺を犬として愛玩する以上のことはしなかった。
 
 唇が触れる。
 
 こんなことあるわけない。
 犬とキスなんてしない。
 する飼い主もいるかもしれないけど、俺は犬じゃないし。
 そういう問題じゃない。
 火内優成が俺を犬だと思ってキスしてくるならその舌を噛んでやる。
 頭を撫でながらキスされる。唇が触れるだけだったのにいつの間にか舌を入れられている。
 こういうのは好きな相手とやるもので誰とでもするものじゃない。
 犬とやるのは絶対違う。
 頭の芯が痺れるぐらいに気持ちがいいのは相手が火内優成だからなのかキスに免疫がないからか。
 
「は、ぁ……ン」
 
 唇が離れてホッとしたような淋しいような気持ちになる。
 もっと欲しいとねだるつもりはなかったけど無意識に口を開いて誘っていた。
 望み通りに深い口づけをもらって俺は夢中になって絡まる舌を追う。
 
 キスは好きな相手とするものだから簡単にしちゃダメなのに気持ちがよくて蕩けてしまう。
 身体中がぐずぐずになって起き上がれない。
 唾液で口元が汚れるのも気にならない。離れようとするのを舌を伸ばして引き留めてキスを続ける。
 いつの間にかキス魔になってしまった。
 毎日フェラチオしないといけないからキスに対するハードルが下がったんだろうか。
 
 あれ? 毎日フェラ??
 
 半覚醒のような意識がゆっくりと浮上する。
 頭を撫でたり俺の耳を撫でたりしているのは火内優成よりも大きな手。
 俺に覆いかぶさるようにしている影も火内優成じゃない。
 水色の髪とタンポポヘッドを見間違えるなんてどうかしている。
 
「え、い……兄さん?」
 
 完全に目を開けるのが億劫で半目状態の俺はとんでもなくブサイクだろう。
 頭がシャキッとしない。
 寝る前にこの世界へ一緒にやって来たみんなのことを考えていたからか夢に火内優成が出てきた。
 別に過去、アイツと何かをした覚えはないし、されたいと思ってもない。意識しているみたいで恥ずかしい。
 二度寝したい。
 
「おはよう。まだ眠いか?」
 
 返事をしようにも何故かA兄さんの指が俺の口の中にある。
 キスされたんじゃなくて口の中に指を入れられて遊ばれてたのか?
 
 起きないからってこんなことしなくてもいいのにと思いながら俺はついA兄さんの指先をしゃぶる。
 何が出てくるわけでもないし味があるわけでもない。
 すでに唾液で濡れている指を舌先で擦り上げる。
 舌のべろべろとした感触に気持ち悪がればいいという茶目っ気。寝ぼけてるかもしれない。
 
「……ふぐっ、ンンっ、んん」
 
 何を思ったのかA兄さんが指を動かしだす。
 歯磨きのように指を歯にこすりつける。
 よく分からないけど、いやらしく感じた。
 歯を擦られるのが気持ちいい。
 指で口の中を犯されてる。舌と舌が絡み合うキスよりエッチ。
 
「彗星は少し寝起きが悪いからお仕置きだ」
 
 お仕置きなら仕方がないかもしれない。
 俺はベルトヤカのペットだし。
 
 こんな事を思うのは寝ぼけてるからか、火内優成に犬扱いされていたからか。
 ベルトヤカのペットに甘んじている俺は本当に犬扱いが嫌だったんだろうか。
 火内優成に頭を撫でられることを喜んでいなかったか。
 俺を餌付けようと必死になっている火内優成の姿に呆れと同時に何とも言えない気恥ずかしさ感じてはいなかったか。
 
「スイは口が弱いですね。すごいエッチな顔してますよ」
「すぅちゃんってお口が性感帯なんだねー」
 
 口の中に入ってくる指が一本ではなく二本になった。
 少し息苦しいと思っていたら二本の指が舌を挟んで擦ってくる。
 なんだかとんでもなく気持ちよくて指を噛まないように口を大きく開く。酸欠だと訴えたいのに舌を掴まれて動かせないから何も言えない。手足は動くはずなのに舌を封じられて身体の力が抜けている。耳を噛まれて舐められる。耳そのものへの刺激より舐められることで聞こえる水音に身体が震えた。舌が耳の穴を出入りしているのが音で分かるのだ。自分の荒い息遣いと水音が頭の中で反響して全身が気持ちがよくなっていく。耳の穴を舌で犯される異常性が堪らない。
 口から指が抜かれても暫く口が閉じれなくて唾液が垂れ流しになってしまう。
 平凡な男が口元をよだれでべとつかせてるなんて冷静に考えたら気色悪いものだろうけど上がった息を整えようとしている俺の目には臨戦態勢バッチリのA兄さんのA兄さんが見えた。
 
 
「ふぁ?」
 
 
 ここでやっと血の気が引いて俺は完全に目覚めた。起き上がろうにもA兄さんが俺に覆いかぶさっているらしい。今からお仕置きですか? 待ってください、待ってください。
 想像通りにDより大きい立派なそれを俺の口に入れるとかマジ無理です。
 
「彗星が俺たちよりも早く起きたら朝の一回でいい。俺たちよりも遅かったらそれぞれ好きなタイミングで複数回。……わかったか」
 
 わからないです、A兄さん。
 フェラの回数とか言わないよね。
 毎日だってちょっとどうなのって感じなのに一日に何回もやるってそんなの無理だし。
 
「躾は厳しくしないといけない」
「や、やさしくがいいなぁー」
「分かった。やらしくする」
 
 その聞き間違いはわざとなの?
 A兄さん流のジョークです??
 

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