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  020 真面目な話の時にセクハラ禁止


 
 
 俺の頭に飛びつこうするので思わず叫び声をあげたら白い毛玉は一斉に部屋の隅へ逃げてしまった。
 だって、脱毛するやつらが頭に群がったら俺の頭が確実にスキンヘッドじゃないか。
 この年で望まずしてハゲなんて恐ろしい。
 ベルトヤカの部下さんたちのスキンヘッドはこいつらのせいだったりするんじゃないかと俺は一瞬で閃いたね。危ない危ない。大きな声に反応するなんてさすがケサランパサラン。繊細な生き物だ。
 部屋の隅っこに固まるもこもことした大中小ある白い毛玉たちはイエティが膝を抱えているようで悲しい。
 イエティなんか見たことないからイメージだけど雪男なんだから白いはずだ。
 
「スイ、ケサランパサランってなんですか?」
 
 ケサランパサランを知らないなんて、どういうことだ?
 日本人の常識じゃないのか??
 いや、俺も火内優成に穴の開いた桐の箱を貰うまで知らなかったけど。
 
 溜め息が多いと俺にケサランパサランをくれた火内優成。
 俺の溜め息の主成分はペンペン呼んで俺を犬扱いする火内優成を含めた周りに対する不満だ。
 幸せは溜め息の中に入っちゃいない。
 ともかく火内優成がおしろいの粉を餌にしてケサランパサランという妖怪を育てるように俺に言った。
 昔は白い毛玉イコールケサランパサランだったらしい。
 本当に幸運を呼ぶ毛玉なのかはともかく阿寒湖のマリモみたいな気持ちで俺はかわいがっていた。
 俺が元の世界に戻らなかったら桐の箱からいつの間にか消えてしまうんだろうか。俺の幸運の毛玉。
 
「ケサランパサランは白い毛玉だよ」
 
 白い毛玉と言えば蜜鳩を思い出す。カツラを取った蜜鳩の髪の毛は白くてサラサラだったけど、カツラはもじゃもじゃ黒いマリモヘアー。蜜鳩は何を思って自分の髪と正反対なものを選んだんだろう。英雄願望が高じて自殺衝動を誘発してるなら実は自分が嫌いだったりするんだろうか。アイアムナンバーワンな感じで自分の好きに生きて行こうとしているように見える蜜鳩の知られざる苦労と苦悩。
 
「Tは毛玉ではなく尻尾ですよ」
「尻尾だけで動く生命体なの?」
「尻尾なので本能しか持ち合わせていません」
 
 アイツらの本能は脱毛なのか?
 人の毛を食べるぜぇみたいな気持ちしか持ち合わせてないとかどうなんだよ。
 っていうか、あれが尻尾なら本体がどっかに居るのか?
 
「中途半端かと思いましたけど、問題ありませんね」
 
 俺を立ち上がらせてDはベルトルと一緒にチェックしていく。
 A兄さんはTと呼ばれた白い毛玉を外へ追い出した。
 無言で蹴り飛ばしてたので少しビビりました。
 なんなの、A兄さんは毛玉が嫌いなの?
 俺をハゲにしようとしたから怒ってくれたの??
 
「スイの髪の毛が食べられたら私の髪を切ってカツラを作ります」
「それを俺に被せようとか思わないでね」

 そんな形で水色の髪デビューとかイヤだ。
 俺は黒髪で構いません。気にしないでください。
 
「オレは髪の毛を舐めたりしなかったんだけど……?」
 
 首を傾げるベルトル。
 よく分からないけれど、ベルトルに全身ぺろぺろされたところから俺の脱毛計画が始まってたんだろうか。舐めてて毛が引っかかると言いながら最初から毛を抜くことを前提でぺろぺろ?
 
「えい兄さんが俺の後頭部にキスしてた気がする」
「あぁ、したな」
「えいちゃんのバカぁ。知ってるでしょ。あいつらがベルトヤカの体液を求めてるって」
「体液って……」
「さっきスイに塗っていたのは私たちの精液などを使いやすい状態に加工したものです」
 
 精液って加工できるんだってそういうことじゃねえわ!
 全身くまなく精液塗られるとかどんなセクハラだよ。
 事後報告だし。
 知りたくない事実だ。
 後の祭りだからこそ明かさないでいてくれればよかったのに。
 
「最初は美白効果や潤いを感じられますけど、塗り続けると肌の細胞が死滅して肌色がまだらになったりします」
 
 怖いよ。そんなものを俺に塗るなよ。
 あぁ、そういえばベルトヤカの精液がどうたらって言ってたね。
 事後報告は本当よくない。よくないなぁ。
 Dのそういう後出しなところが腹黒成分なの?
 地味に追い詰めて楽しんでるとかないよね。
 もっと丁寧優しく溺愛してくれていいんだからね!?
 
「それでは薬湯に入りましょうか。そのままだと明日は起き上がれなくなるかもしれません」
 
 俺の肌に劇物が塗られたってことですか。
 ちゃんとパッチテストしてから塗ってよ。
 Dが俺の手を取って歩き出すけど裸で?
 屋敷の中に他に人はいないんですかね??
 露出プレイなんです?
 
「歩きたくないなら」
 
 戸惑って歩き出さない俺に来いとばかりにA兄さんが手を広げるけど、もっと困るわ。
 Dとは反対の手をベルトルに引っ張られて俺はしぶしぶ歩き出す。
 ちみっこの手を煩わせるわけにはいかないからねー。
 
 
 
 
 風呂場ではぬるぬる地獄があったけど詳細は伏せておく。
 快楽は強すぎるとつらいんだってみんな覚えておくように!!
 
 食事の席で俺は何を聞くべきか悩んだ末に「地図ってある?」と三人に尋ねた。
 夕飯として出されたのは箸で食べるパスタ。
 なぜパスタを箸で食べるのか。いいや、箸で食べる人はいるしそういうお店もあるけどそうじゃなくてなんでナチュラルに箸があるんだよ。日本人か? 過去の日本人がパスタは箸だと教えたのか??
 
 味はシーチキン醤油バターみたいな感じ。
 見た目は夏村流水の言った通り焼きうどんに近いものがある。
 上に海苔じゃないけど黒いものが散っているからかもしれない。醤油の香ばしい匂いとかあるし。
 マズくはないけど美味しいかと言われると微妙。
 俺はパルメザンチーズをたっぷりかけたミートソーススパゲティーがいい。妥協案でカルボナーラ。ペペロンチーノはそんなに好きじゃない。
 
「日本の知識あるなら分かるかもしれないけど……地図を作る技術とか地図の重要性とか地図の精度とか」
 
 文化的な違いを聞けばタブーとかさっきの蜜鳩の話も分かる気がする。
 これは普通に知っておいた方がいい知識だろうし。
 
「地図はあると言えばありますが、不完全なんです。……そして、各国の友好関係から考えて世界地図を作ることは困難ですし、自国の地図も穴だらけと言いますか、随分と古いものです」
 
 地図を作る人がいないから地形の変更を書き加えられないとかそういうことだろうか。
 首を傾げていると食事を終えたのか、飽きたのかベルトルが俺の膝というか太ももに頭を乗せてくる。遊んでいるのか何なのか。
 ちなみに俺の格好はスーツだ。やったね!! ズボンがあるよ。
 これは「お兄ちゃんとお揃いがいいなぁ」攻撃によって手に入れました。
 A兄さんの反応からして効果は抜群だ!
 ただ俺に合うサイズはないのでブカブカでハッキリ言って見苦しいけどズボンのない見苦しさに比べたらマシだと思うことにした。
 
「記憶がノイズのせいで統一されないからな」
 
 溜め息をつきながらA兄さんがポテトサラダっぽいものを口に入れる。
 俺にはそれはない。パスタでお腹いっぱいだからいいけど人が食べていると気になるものだ。
 ベルトルが俺のゆるゆるなズボンを降ろそうとする。手で止めようとするものの頬っぺたを膨らませて上目遣い。俺がそんな攻撃でたじろぐと思って……たじろいだけど……!! ちょーかわいいんですけどー。
 
「あぁ、勇者死亡さんが邪教を滅ぼしてくれれば話が早いんじゃないですか」
 
 思わぬところから蜜鳩の話題!
 勇者志望だよね? 死亡って聞こえたような……いやいやブラックジョーク?
 邪教ってなんだ。
 魔王的なものがやっぱりあるんだろうか。
 
「この世界にはいろいろと宗教があります。スイが知っている神様もいるかもしれませんが世界三大宗教であるキリスト教、イスラム教、仏教はありませんよ」
 
 世界三大宗教とかいう言い回しで通じるんだ。
 感心しているとベルトルの指がきわどい所を撫でる。
 やめなさい。真面目な話の最中です。かわいい顔したって食事中のチンコぺろぺろは許しませんからね。マナー違反ですよ。
 
「邪教、いわゆる悪魔崇拝とでも言うんですかね? 病原体をばら撒いている組織というか団体というか個人がいます」
 
 組織と個人じゃ全然違うと思うんですけど。
 個別に動いている同じ思想を掲げている人たちとか?
 
「んん? 蜜鳩が病原体に感染してるって……」
 
 そんなことを言っていた気がする。
 Dは頷いて「だからこそ後始末をお願いしたいものです」と言った。
 潰し合え的なニュアンスを感じる。
 もしかして邪教とやらは壮大な中二病集団なんだろうか。
 みんながみんな俺が世界を救ってやるって思って行動してるのが世界規模で大迷惑みたいな。
 
「ベルトヤカの役割は病原体の除去、邪教の追放だ。それでやっと世界に正しい歴史が戻ってくる」
 
 A兄さんは多分丁寧で親切なんだろうけど俺からしたらRPGの予言書とか魔女の言葉みたいな感じに聞こえる。
 今は言葉の意味が不明だけどいずれは分かるんだろうとメモだけとって迷路やパズルの攻略ヒントだって分かったら考えようみたいな、そんなことを思っちゃうほど頭に入ってこない。
 だって普通に考えて世界に新しい歴史が戻ってくるって何?
 

 そして、話しに集中できないからベルトルは俺の脇腹舐めるのやめてくれないかな。チンコじゃなければ舐めていいってわけじゃないから!?
 食事中のぺろぺろは禁止です、禁止。
  
 

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