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1:不良、彼氏ができる


 マゾ奴隷に必要なものとは何であるのか考えた末にオレがいきついたのは「体力と武力」だった。
 殴られたり蹴られたりするのは最高に気持ちいい。
 だからこそオレはマゾ奴隷を目指している。
 
 痛いことをされたい。
 もっとされたい。もっともっとされたい。
 ずっと痛みを味わっていたい。
 
 つまりオレの望みを叶えようとするなら体力が必要になる。
 ちょっと殴られたり蹴られたりして気絶するなんてもったいなすぎる。
 マゾ奴隷失格だ。
 オレはどんなプレイにも対応できるように体力をつけなければならない。
 
 暴力に耐えるだけの力もいるし、望まれたように動くのは体力がいる。
 それにオレにだって好みがあるから誰彼構わずに殴られたり蹴られたりしたくない。
 誰でも受け入れるようなのはオレの望みとは違う。
 ゴミみたいに扱われるのは興奮するかもしれないが安心安全なマゾライフを送るためには選り好みする必要がある。
 性病もちのおやじに犯されるのは妄想の中だけでいい。
 
 最低限自分の身を守る武力は必要だろう。
 結果マゾ奴隷になるために「体力と武力」を手に入れなければならない。
 効率を考えて閃いたのが不良になることだった。
 
 不良になれば殴られたり蹴られたりする上に力もついていくだろう。
 一石二鳥とはこのことだとオレは不良を目指した。
 べつに不良になるのにタバコやお酒は必要ない。やる気もなかった。
 髪の毛を染めて真面目だと思われない程度に制服を着崩す。
 私服にちょっとお金をかける。
 ピアスをいくつか開けてみる。
 痛くて最高に気持ちよかった。
 
 鍛えれば鍛えるだけオレは強くなった。
 ごつくなりすぎたかと思った時にはオレは地元を牛耳る悪の大将になってしまった。
 こんなことになるなんて予想外だ。
 不良になるつもりはあっても不良としてのし上がるつもりはなかった。
 
 歩いていると強面のセンパイに頭を下げられる。
 知らない人間から鉄パイプで殴られる。
 何度かバイクで轢かれそうになった。
 変な噂が立てられる。
 
 求めていたのと違うと自分の立ち位置に不満を感じ出したときに男に告白された。
 どうも罰ゲームで度胸試しらしい。
 けしかけたのはオレの知り合いの知り合い。
 オレが噂と違って凶暴じゃないと知っているから遊びに巻き込んでもごめんで終わると思ってる。
 鬱屈としていたのでオレは笑って済ませてなんてやらなかった。
 礼を言って受け入れてやった。予想外だったのだろう顔面を真っ白にしていた。
 
「人からすきだって言ってもらうの、はじめてだ。うれしい」
 
 口からこぼれたこれは本音。
 照れた顔で「これから、よろしくな」と手を差し出した。
 目の前のどこにでもいそうな平凡顔が驚愕に彩られても知ったことじゃない。
 握られた手は震えていて力加減が出来ないのか少し強く握られたが柔らかなケンカ慣れしていない手の平は新鮮だった。
 人と触れ合ったことが少ないと思いながらオレは今にも失禁しそうな自分の彼氏になった相手を見る。
 
 謝ってきたら「知ってた」と言ってやろうと思った。
 だが、このまましらばっくれるなら茶番に付き合ってもらう。
 オレのことなんか好きじゃないのに好きなふりをして嫌々連れ回されるなんて最低な気分だろう。
 不良であるオレの隣にいてこれから先いろいろと怖い思いをするかもしれないが人の純情を踏みにじった罰だ。
 最初から目の前の相手の言葉なんか信じちゃいないが恋人という存在は興味がある。
 この際だから泳がせて観察するのは悪くない。
 
 悪いことをしておいて謝りもしないんだからこのぐらいの意地悪は許されるはずだ。
 
 オレよりも身長が低い彼氏はいつもビクビク怯えている。必要以上にオレの顔色を窺って機嫌を取ろうとする。騙したとバレたらオレに殴り殺されるとでも思ってるのかもしれない。オレの噂は凶暴なものが多い。勘違いされても仕方がない。
 
 オレは彼氏に自分の隣にいる以上のことを求めなかった。悪戯で人に告白するなんてダメだって反省してくれればいい。オレはそれ以上を求めてない。度胸試しに告白するなんて相手がオレじゃなかったら本当に傷ついていたはずだ。
 
 彼氏を見ているとこういう態度のほうがイジメ甲斐があってサドに人気なのかもしれないと思うようになった。
 あからさまに怯えるような、被虐心を煽りそうな顔。追いつめたいと思わせそうな表情。マゾのオレは強い不良ではなくもっと弱そうな小動物を目指すべきだったのかもしれない。
 
 オレの知り合いの知り合いである彼氏の友達はオレの悪ふざけとも言える恋人ごっこを笑って見てる。手助けなんかしてこない。彼氏が震えてるのが面白いんだろう。知り合いの知り合いである彼氏の友達はサドっ気がある。
 
 鍛えた自分の身体は嫌いじゃないし、疲れ知らずのスタミナは誇りだ。
 でも、ナイフで刺されかけたり釘バッドで闇討ちされたりは違うんだよな。
 オレは乳首を引っ張られたりチンコイジメられたり、集団で一晩中犯され続けたり、小便かけられたり、卑猥な言葉を言わされまくったり、やりたくないことを脅されて無理矢理しなくちゃいけないマゾ奴隷になりたい。
 
 ご主人様に求める要素は「容赦がない」「途中で止めない」「傷つけ過ぎない」ってところ。
 滅茶苦茶にしてほしいとは思っても死んだり障害が残るようなのはNG。
 そこらへんはちゃんと見極めてほしい。
 安全に気持ちよくてオレの身体を蹂躙してもらいたい。
 
 そのために後ろの穴も乳首も自分で開発しないようにしている。
 まだ見ぬご主人様に一からエロくしてもらいたいからオナニーは亀頭責めオンリー。
 潮をふいたり、コックリングをハメて空イキするし、いろんなオナホを試してはご主人様に後ろや乳首をお預けされてる妄想をする。
 
 セックスしてえっていう悶々とした気持ちはケンカで発散。
 でも、無敗すぎて挑戦者はいない。
 オレは不良だけど適当に他人を殴りつけたりしない。
 カツアゲしていたり人に難癖をつけている人間を殴りつけることにしている。
 他人のケンカを勝手に買うという嫌な奴だ。
 
 最近はケンカをしても怪我をしなくなってきた。
 強さの証明かもしれないがマゾ的にマイナスすぎる。
 舌打ちしたい気持ちでいたら段差で体重移動をミスって足をひねった。
 思わぬ怪我だが痛みは最高だ。
 オナホでしこしこしてるときに足が熱くなって痛くてすぐに果てた。
 自傷は嫌な気持ちになるのでオナニーは完治するまで諦めることにする。
 マゾでいたいのが好きとはいっても自分で自分の身体にわざと傷をつけるのは嫌だった。
 ピアスはギリギリOK。入れ墨はダメ。たぶん親の反応を予想して萎えるからだろう。


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