つやごと(艶事)(月島)





 恋は落ちるものだというけれど、彼女を好きになったきっかけは自分でもわからない。考えないようにしていた、けれど、気づけば熱をもった視線で彼女を追ってしまう自分がいた。




「つきしま、くん?」





 薄暗い灯りに照らされて目を見張る彼女は、僕の存在に驚いているようだった。そりゃ、そうだろう。暗い夜道を家まで送ったことはあったがそれも数えるほどで、雪が降りしきる寒空の下、一人暮らしの彼女の家の前で何の約束もなく、傘もささずに後輩が立ち尽くしていたのだから。「雪、降ってるのに。どうしたの。風邪ひいちゃうよ」と心配そうな声色で言いながら、彼女はボクの腕を引いて自分の傘に入れた。肩と肩が触れる距離。彼女の吐息が白く溶けてゆく。





「...会いたくて」
「え?」
「来週、卒業ですよね。だから、最後に、話したいことがあったんです」





 本当は、話す言葉など見繕っていたわけではなかった。ただ、部室で田中さんと西谷さんが「スガさんが卒業式の日になまえさんに告白するらしい!」とはしゃいでいるのを聞いてから、何も考えられなくなったんだ。気付けば微かな記憶を頼りに、ここまで足が動いていた。「わかった。入りなよ、寒いでしょ」と柔らかい声で彼女はボクを部屋へ招き入れる。





「いま暖房つけるから、ちょっと待ってね」
「、すみません。急に」
「ビックリはしたけど。どうかした?部活で何かあった?」
「無防備に男を部屋に入れるのはどうかと思います」
「...はは、だってあんな大雪の中、可愛い後輩を放置できないでしょ。私も寒かったし、っわ、っ」





 愉快そうに笑った彼女を力任せに押し倒し、ゆっくりと唇を重ねる。かたく閉じた唇を割ろうと、舌先で角度を変えながら何度もその柔らかい唇を吸った。





「っ、ん、...っ」
「...最初で最後の、お願いがあります」
「、なに?」
「今日だけでいいので、ボクに、みょうじ先輩をください。」
「...くださいって、どういう」
「好きです、好き、なんです」





 言葉が続かなくなる。ボクがそのまま押し黙ると、彼女は頬を緩ませて「キス、初めてだったのに」と浅い呼吸で呟き、静かに「いいよ」と言った。




 ぷつり、と何かが切れた。




 勢いに任せて彼女の唇に自分の唇を重ね、唇から頬、首筋、鎖骨、肩へと舌を這わせていく。脳が甘く痺れていくのを感じながら、柔らかな膨らみに手を添えると華奢な肩がぴくん、と震えた。シャツの下に手を潜り込ませ、かたくなった突起を円を描くように愛撫する。吐息混じりに耳元で聞こえた微かな嬌声が、より一層欲を掻き立てた。その柔らかい内腿に手を這わせ、秘部に指先を埋めれば、彼女はボクの頬を指で撫でて「月島くんに、私の初めてを全部あげる」と確かにそう言った。熱く、溶けてしまいそうだった。

 



「...ふ、...あ...っ」





 かたく膨らんだ自身を彼女の濡れたそこにゆっくりと挿し入れていく。痛みに顔を歪めた表情に思わず動きを止めると、「やめないで」と彼女は淡く微笑んだ。





「...大丈夫ですか」
「っ、...だいじょ、ぶ」
「ゆっくり、動きます」
「...ん、っ...」
「好きです、っ」
「...あ、...私も、すきだよ、月島くん」





 果ててしまいそうになるのを必死で耐えながら彼女の手を握れば、指を絡めて握り返してくれる。腰を前後に動かして、心の奥底に溜まっていた嫉妬も、性欲も、そして恋しさも、すべてを吐き出すかのようにひたすら彼女の熱だけに意識を向けていた。もうだめだ、と彼女のお腹の上で欲望を吐き出せば「汚れちゃった」とみょうじ先輩は悪戯っぽく笑う。




 嗚呼、この世界には君とボク以外、何も要らない。







(2023.06.12)
つやごと(艶事)
男女の情事に関した事柄。ぬれごと。

「好きってどうことデスカ」
「...そのままだけど」
「菅原さんのことは?」
「なんでスガ?友達だけど」
「...はぁー」
「なんで溜息つくのよ!」
「知らなくていいです。安堵の溜息ですし。ボクだけのみょうじ先輩に、なってくれますか?」

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