家に帰ってからしばらく経った。ふっと窓から下を見ていると皇毅君の姿があった。
「何か用なのかな?」
私は気になって玄関まで急いだ。ドアを開けると、皇毅君が驚いていた。
「随分早いな」
「うん、さっき下見たら皇毅君がいたからうちに用なんじゃないかな〜って」
皇毅君はまあ確かにと呟いた。
「これを返して来なさいと母に言われたんだ。」
がさごそと紙袋の中から出てきたのは巻き簾だった。
こんなの貸したっけ?と記憶をたどる。
「随分前に借りたみたいだが、昨日やっと使った。すまないな借りっ放しで」
「じゃあ、昨日は巻き寿司だったんだね!」
「ああ、入学式には仕事で行けないから巻き寿司で我慢して…と言われた。」
皇毅君の両親はとても忙しい人で、あまり家には帰ってこない。だから、たまにうちにご飯を食べに来たりする。
「あっ、そうだ!皇毅君上がって上がって」
「雅が言うならお邪魔させて頂こう」
「うん、うん。あのねさっき貰った桃でパイを作ってみたんだ」
皇毅君はピタリと動きが止まった。何か用事でも思い出したのだろうか?
「まさか…晏樹から貰った桃で作ったのか?」
「え、うん…そうだけど」
あれ?皇毅君桃嫌いなんだっけ?
「いや…何でもない。だが、今度作るときは私が桃を持ってくる。それで作ってくれ、絶対にな」
皇毅君どうしたんだろう?
それからパイを食べ、二人してソファーに寄り掛かってカーペットに座っていた。
柔らかい日差しが差し込み、あったかい。
「春だね〜」
「寝るなよ?今は暖かいが夜になったら寒く…って言った側から…」
自分よりも小さい彼女。肩に頭が乗っていたのがだんだんと落ちてきて、膝に落ちた。
その衝撃で起きると思ったのに、起きなかった。
「おい…起きろ」
「………ふふっ…」
膝を揺らしてもむにゃむにゃと幸せそうに寝ている。
一体どうしたらいいんだ。
深くため息をつくが、もう慣れたものだ。この頭の重さが幸せの重さだと言ってもいいくらいだ。
「しかし…雅も大きくなったよ。」
小さい頃から見てきたのに…季節が移り変わるごとに可愛くなっていく。
もう、目が離せないほどに
「だいぶ…重症だな」
頭を撫でると雅の手がギュッとズボンの裾を掴んだ。
それよりも本当にどうしようか?
「玄関の鍵閉めてないんじゃ…」
まあ、それは雅の両親が帰ってくればいい話だ。
とりあえず、今はそっと寝かせておこう。
end
20110223