あの日からもう一週間以上経つ。風見さんは今日も姿を現さなかった。明日はお休みの日。久しぶりにポアロにでも顔を出しに行こう。梓さんにも会いたいし… 次の日、お店に定休日の看板を立て私はポアロへと向かった。暇な時間を狙って行ったので、お客は私だけだった。 「梓さんお久しぶりです!」 「雅ちゃん!」 梓さんは今日もはりきっている。梓さんに会うととても元気になれる。私も見習わないといけないなと思うのだけれど、私の性格に合わないのか常連さんにらしくないといわれる。 「雅ちゃんなにか悩みでもあるの?」 さっそくばれてしまった。そこまで深刻な悩みではないが、長い付き合いでもある梓さんにはわかってしまうのだろう。 「なになに〜恋の悩み〜?」 「恋って、そんなたいそうなことじゃなくてですね…」 恋という単語に少しドキリとしてしまった。でも、この感情は恋ではない、そう思いたい。カウンター席でコーヒーを一口頂く。やっぱりここのコーヒーは美味しい。 「実は最近常連さんになった男性がこの頃見かけなくなってしまって」 梓さんはうんうんと頷く。なんだか恥ずかしくなってきたからここでもう言うのはやめようかなとしたとき、後ろから声をかけられた。 「雅さん、風見のこと気になるんだ?」 「うわっ!? な、なんで安室さんがここに!?」 すごくいいタイミングでお店に入ってきたのは、安室さんだった。しかも、とてもニコニコ笑顔だ。この顔をしているときは注意しないと、梓さんに変なことを言われてしまう。 「雅ちゃんが気になってる人って風見さんって言うのね。うんうん、それでそれで!」 ああ、まずい……話は変な方向に行ってしまった。 「安室さん、変なこと言わないでくださいよ…それに、この間は私のこと名字で呼んでましたよね?」 「えぇ? そうでしたっけ? 僕雅さんのこと名字で呼びましたっけ?」 覚えてないなーと安室さんは笑った。安室さんは中に入りエプロンを着た。 「そんな怖い顔しないでくださいよ」 どうぞと安室さんは冷蔵庫からリンゴのケーキを出した。この間試作で作ったリンゴのケーキは美味しかったのだが、安室さんの本物の味を食べたくて前の日に連絡しておいたのだ。見た目は自分の作ったものと変わらない。一口食べてみる。 「美味しい…!」 自分の作ったものより遥かにおいしい。このままではいつお店におけるかわからない。何が自分のと違うのだろうか。 「そんなに雅さんが作ったものと味が違います?」 「そうなんです…うーん、言葉で伝えるのはちょっと難しいですけど」 「それじゃあ……今度予定が合えば一緒につくりませんか?」 安室さんからの素敵な提案に心がひかれた。でも、安室さんは忙しい人だからそうそう予定が合うことはないだろう。 「お店を閉めたあとでもいいですか?」 もちろんと彼は答えた。最後のコーヒーを飲み終わり、会計をして二人に挨拶をしてから外に出た。あの話の後からだんだんとお店が忙しくなっていったからだ。これからどこに行こう。久しぶりに服でも買いにでも行こうかなと思ったときだった。 「雅さん、忘れ物ですよ」 お店から出てきたのは安室さんだった。彼の手にはハンカチがある。いつの間に忘れ物なんかしたのだろうか。 「わざわざありがとうございます」 「いえ、いいんですよこれくらい」 それじゃあと歩き出そうと一歩足を出したその時。 「後で風見に、雅さんが寂しがってることを伝えておきますね」 「えっ! あっ、安室さん! それはあの! だ、大丈夫ですから」 「……本当に雅さんは面白いひとですね。冗談ですよ」 クスリと安室さんは笑った。なんだ、冗談か…よかった。それから、安室さんとは別れ街の方へと歩き出した。 20180610 |