「風見警部、お疲れ様です」
珍しく警視庁内ですれ違う。まともに顔を見たのは一週間ぶりだと思う。ここ最近は忙しいようでまともに顔すら見ることがなかったし、こうしてすれ違うこともなかった。

「みょうじ刑事……」
ん? なんだか、顔を背けられた気がする。それに、何だかイライラしている気が……

「ああ、私だ。わかった、今行く」
彼に電話がかかってきて、足早く行ってしまう。せっかくだから、お昼でもと思ったがこうなってはしかたない。他の人と食べようっと! 

「みょうじさん、携帯光ってますよ」
「本当だ」

仲の良い女性陣がもうランチに行ってしまったため、私はまだお昼に行っていない若手数人と買ってきたお弁当を食べようとしたところだった。

「ん?」
このメールはもしや…と開くと案の定風見さんからだった。内容は半になったら指定されたところへ来てほしいとのことだった。何だろう、珍しい。久しぶりにメール送るんだったらもうちょっと気の利いたメール文でも打てばいいのに。
まぁ、そんなところも好きではあるけれど。

「みょうじ先輩彼氏ですか〜?」
「まぁ、そういうことにしておいて!」
あははと苦笑いを浮かべごまかしておく。変に詮索されてもめんどくさいし。

「私ちょっと抜けるね」
わかりましたーと後輩たちに買ったプリンをあげ、指定された場所まで向かう。この場所はあまり人の出入りが多くない、どちらかというと本とほこりの方が多い場所。ここも片付けないと怒られるなと思いつつ中に入る。

「風見警部、どこに…っ!」
暗いこの部屋に引き込まれた。手首を握られ、一瞬のことで反応が遅くなってしまった。

「何だか機嫌が悪いようですね? 風見さん?」
「誰のせいだと思っているんですか、ナンバー?」
怒ってる、本当に何で怒っているんだろうか。めったに下の名前で呼ばないくせに、こういう時は呼ぶんだから本当にわかりやすい人。

「こうして言葉を交わすのも久しぶりですけど、怒られる理由がありました?」
「私は別に怒ってはいない」
彼はそういうが、顔を見ればわかる。あともう数センチ近づけばキスができる距離で、彼は何もしない。

「怒ってますよ? ほら、眉間にしわよせて……かっこいい顔が台無し。ま、私はそういう顔も好きですけどね」

「それでは単刀直入に言うが、違う男とでも寝たのか」
「は……?」

この人は恋人に向かって何を言い出すのだろうか。しばらくぶりに会う彼女に向ってそれはないだろう。冗談が言えるような彼じゃない。それは私が一番よく知っている。

「それは肯定と受け取っていいのか?」
「私が風見さん以外とするわけないでしょう! それに、風見さんはどうしてそう思ったんですか?」
そういうと彼は私の首元に顔をうずめた。風見さんの髪の毛はふわふわしていないけれど、硬くてくすぐったい。

「匂うんだ……他の男の匂い、というか香水が」

「匂う……? ああ、もしかして柔軟剤のことですか?」
「柔軟剤?」

彼はキョトンとした顔で私の顔を見た。

「最近柔軟剤の匂いを変えたんですよ! ちょっと前のより強い匂いかなぁと思ったんですけど、みんな気づかないみたいだったから」
「柔軟剤……」

風見さんは呪文のようにつぶやく。そんなにショックだったのだろうか。

「風見さんは私が浮気したと思って妬いてくれたんですよね!」
あの冷静な彼が妬いてくれるなんて嬉しくて午後からの仕事もがんばれそうだ。

「でも、よかった。風見さんが私のことをまだ好きでいてくれて」
「柔軟剤にヤキモチ妬くくらいに、な」
ちょっと照れながらそう言った。かわいい。

「あっ、もうそろそろ戻らないと。じゃあ、また仕事がひと段落したらメールして」
「っ!」

帰り際に彼の頬にキスを一つ落とした。彼はびっくりして頬を抑える。

「顔、真っ赤だよ? じゃあね!」

バイバイと小さく手を振り私はその場を離れた。

「不意打ちは心臓に悪い……」
一人取り残された彼はそうつぶやいたのだった。


20180525



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