今日は裕也さんは何時に帰ってくるだろうか。最近は遅い帰りが多かったから、今日も遅くなるかもしれない。
よし、そろそろ煮込み始めようかなと手を洗い、具材を鍋にいれようとした時だった。

「・・・・・・ただいま」
「っ! お、おかえりなさい!」
足音もなく私の肩にもたれかかるのは、旦那である裕也さんだった。手が私の腰にまわされた。

「あ、あの、どうしました?」
「ちょっとこのまま、こうしておいてくれないか」
だいぶお疲れがたまっているようだ。そうじゃなければ、こんなことはしない・・・と思う。

だって、普段の彼はとても真面目で、自分にも相手にも厳しくて、かっこよくて・・・・・・それに、優しくて、ちょっぴり甘えるのが下手。ちょっぴりじゃない、とってもの間違いだ。
そんな人が、まるでドラマや映画のシーンみたいなことをするなんて・・・・・・
そう思うとすごくドキドキする。彼はどう思っているだろうか?

「裕也さん、ドキドキします」
「私も、同じだ」
裕也さんのいい声が私の耳元をくすぐる。

「今度のお休みはどこか裕也さんがゆっくりできるところに行きましょう?」
「そう、だな・・・・・・」
職業上、遠出はできないが近くでリラックスできるところをあとで探しておこう。それか知り合いに聞いてみようかな。

「あまり夫婦らしいことができなくてすまない」
「私は一緒に暮らせるだけで幸せですよ」
私を抱きしめる腕の力が強くなった。

「でも、あまり怪我をしないでくださいね」
回された腕はお世辞にもきれいとはいえない。彼の腕は傷もあり、顔には大きな絆創膏が貼ってある。

「それは・・・・・・」
怪我が絶えないのは職業上しかたない。彼は困った顔を浮かべていた。私は彼の困った顔を見るのが好きだ。いつも無表情の彼が、それ以外の顔を浮かべることが少ない。ふんわりと笑う顔も、泣きそうな顔で私を守ってくれた表情も、すべてが好き。

「裕也さんは、私をどれだけ虜にするんですか?」
「は?」
ああ、その顔もいいなぁなんて。でも、本人には言わないでおこうっと。

「もう、こんな時間か」
時計の音が聞こえた。私を抱きしめていた腕はゆっくり離れ、彼はなんだか恥ずかしいのか、顔をそむけていた。

「じゃあ・・・・・・ご飯にしましょうか!」
ああと彼の返事が小さく聞こえた。


20180516


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