二徹した日、なぜか体がぼろぼろでどうやって家の近くまで来たのか覚えていないほどだった。
家の鍵は閉まっている。それもそのはずだ、まだ朝の4時だからだ。もう帰っていいぞと言われたのが朝の3時くらいだったはずだ。

こんなに早く帰れるのなら鍵をもってくればよかったと少し後悔しながら、鍵が開くのを待っていた。さすがにまだ寝ているのかと、もう一回鳴らしたら車の中で眠ればいいかとぼんやり考えているとガチャリと鍵が開いた。

「裕也さん! おかえりなさい!」
「ナンバーさん・・・」
出迎えて来てくれたのは、パジャマ姿・・・ではなく普段の姿をした妻だった。
「すみません、ナンバーさんこんな朝早くに帰ってきてしまって」
「私、裕也さんの帰りを待っていました」
ナンバーは私の胸の中にすっぽりと入ってきた。彼女の冷えた体は、いつまで自分のことを待っていたのかがよくわかった。

「いつ帰れるかわからないから寝ていてくださいと、言ったじゃないですか・・・こんなに冷たくなるまで待っていなくても・・・」
「裕也さんごめんなさい・・・でも、私待っていたかったの。裕也さんにおかえりなさいって言いたかったから」
ナンバーの言葉は徹夜明けには効果がある。その言葉だけで徹夜明けの疲れがなくなりそうだ。

「いつもいつの間にか帰ってきて、いつの間にか出勤しちゃうでしょう? だから・・・おかえりだけは顔を見て言いたくて」
迷惑だった? とナンバーは困り顔で言った。そんな表情もかわいいなと思いつつ、彼女を抱きしめた。
自分は不器用な人間だから、素直に言葉にできない。だから、こうして態度で示すんだ。

「裕也さんっ!?」
ナンバーは私の珍しい行動に少し驚きもがいていたが、観念したのか静かになった。今頃顔が真っ赤なんだろうなと想像するだけで、胸の中がじんわりと暖かくなった。

「そろそろ部屋に入るか・・・ナンバーさん?」
抱きしめる力を緩めて、ナンバーの顔をみれば、予想通り顔が真っ赤だった。
「顔、真っ赤ですね?」
「ゆ、裕也さんが、あ、朝からそんな・・・っ・・抱きしめたりするからです・・・・」
「ん? 最後の方は小声でよく聞き取れなかったぞ?」

いじわる! とナンバーは赤い顔をしながら部屋の中に入っていった。

「これは、徹夜明けのご褒美だな」
こんな明けの朝があってもいいだろうと一人であまり回っていない頭でそう思った。


20180513






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