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帰りのHRも終わり、急いで支度を終え清水さんの元へ行った。
行きましょうと清水さんは鞄を持ち私に声をかけた。
一体、どこに行くのだろうか・・・

清水さんの後ろを歩いていく。胸が緊張でドキドキと高鳴る。私達は喋ることなく歩いていく。たどり着いたのは第二体育館だった。はっ!まさか、ドラマでよくある体育館呼び出し・・・変な汗が出てきた。

「終わるまで上で見学してもらってもいい?」
「け、見学!? い、いいの?」
その言葉に私は驚いて後ずさってしまった。その姿を見た清水さんはフッと笑った。その笑みは素敵だった。
でも、それよりも見学できることが嬉しかった。

私はドキドキと胸を高鳴らせ体育館の中に入った。中にはまだ誰もいなかった。

「私は準備があるからみょうじさんは上に行ってて」
うん、と私は体育館のギャラリーへと歩みを進めた。体育館にはまだ誰も来ていない。
清水さんは部活の準備を始めた。私も何か手伝った方がいいのだろうか。
バレーの知識もマネージャーとしての知識は持っていないため手伝えることなどなかった。

それから数分して続々と部員が集まり部活動が始まりそうだ。

「潔子さんあそこにいるのって誰っすか?」
「私の友達の・・・」
「みょうじなまえって言います! 私のことは空気だと思って練習頑張ってください!」
ここはすかさず挨拶をしなければと大きな声でそう言った。けれど、なぜか周りは静かになってしまった。変なことでも言ってしまったのだろうか・・・

「だ、そうだ皆気にせず練習始めるぞ」
澤村君のナイスフォローにより練習は始まった。

「あっ、菅原君・・・」
「みょうじさん、さっきのナイス挨拶だったよ」
私に向かって笑顔で手を振ってくれた。私は嬉し恥ずかしで控えめに手を振りかえした。その笑顔にキュンとした。文句なしにかっこいい。

今日のあの出来事を思い出し、カッと体が熱くなった。私が好きな彼の練習しているところが見れるなんて幸せだ。幸せすぎて後が怖い。そう、部活後の清水さんからのお話というのはどんな内容なんだろうか。

でも・・・さっき清水さんは私のことを紹介する時に友達と言ってくれた。それがなにより嬉しかった。だから、どうして私をここに呼んだのか気になる。


「あっ」
「・・・あっ」
あれは見たことがある男の子だ。同じ学校だったんだなと今気づいた。

「影山君、烏野だったんだ」
「っす」
つい、中学の時のノリで話しかけてしまった。私は彼と同じ北川第一の出身で何度か彼とは会話をしたことがあった。その時の会話がどんなものだったかは忘れてしまったけれど。

でも、あの時とは圧倒的に雰囲気が違う。柔らかくなったというか、丸くなったと言うべきか・・・

「なんか、雰囲気変わったね」
「おーい、影山ー!」
彼のいるコートの反対側には元気にジャンプをしている男の子の姿があった。
私は一瞬でああ、この子のおかげかなと気づいた。
彼のジャンプ力は凄くて、何度でも見てみたいと思った。練習を見ているだけなのに、自分までその輪に入ったかのような錯覚が起きた。

「集合!」
あっという間に練習は終わり皆片付け始めた。私は下に降り何か手伝えることはないか探したがやっぱりなかった。

「みょうじさん、見学してどうだった?」
「っ! 凄く面白かったし、見てるだけなのに私まで熱くなってきちゃって」
変な子だと思われそうだと思ったけれど、自分の思ったことを正直に話した。
それよりいきなり爽やか王子に話しかけられるなんて・・・

「これしまったら終わりだからちょっと外で待っててくれる?」
・・・? その言葉を理解できなかった。彼は倉庫の方へ行ってしまった。
外で待っててってそのままの意味でとらえていいんだよね? でも、清水さんを待たないと。

「みょうじさん先に外で待っててもらえる?」
「う、うん・・・」
清水さんを見つけ話しかけたが、菅原君に言われたことと同じことを言われた。
仕方ないと私は言われたとおり外で清水さんを待つ。

「じゃ、俺先に帰るわ、お疲れ!」
あっ、この声は菅原君だ。まだ他の部員はまだわいわいしながら片付けている。

「じゃ、帰るべ」
「でも、清水さんを待たないと・・・」
「いいからいいから、ほら」
菅原君は手私に向け手を出した。男性らしいその手をジッと見た。
どうして手を? と彼に質問しようと口を開きかけた。

「手、乗せて」
「え、うん・・・」
私は菅原君の言うとおり手を乗せた。そしてギュッと握られた。

「す、す、菅原君!?」
「とりあえず歩こっか」
手を握られ、直に彼の手の温もりを感じれる。心臓がバクバクと五月蝿く高鳴る。この音、聞こえてないよね? 大丈夫だよね?

校門を抜け少し歩いたところに公園が見えた。

「あのさ、聞いてほしいことがあるんだ」
「うん・・・」
いきなり畏まって何だろうか。菅原君に勧められるままベンチに座った。
聞いてほしいこと・・・教科書のことだろうか。教科書なくしちゃったとかだろうか、うん、それは言いにくいことだよね。
それにそれくらいしか話がない。

「買い直せばいいだけだからそんなに気にしないでいいよ!」
言いにくいなら私からフォローしようと言葉を発した。すると、なぜか菅原君は笑いだし、お腹を抱えていた。

「ご、ごめん、っ・・・くっ。みょうじさんって本当に・・・」

「え?」
ふわっと彼は私に抱きついた。一体何が起きているのかわからない。菅原君のさらさらな髪が私の首筋をくすぐる。

「本当に可愛いよ」
「何を言って・・・」
ゆっくりと菅原君は私から離れ、向き合う形になった。彼の目はいつにも増して真剣で目が離せなかった。

「俺、みょうじさんのこと好き、なんだ」
「・・・本当に・・・?」

夢じゃなくて、本当に本当だろうか。彼が私ののことをす、好きって言うのは。

「嫌じゃなければ・・・俺の彼女になってほしい」
「よろしく、お願いします・・・」
力強い菅原君の言葉に私は頷いた。

まさか、片思いが両想いになるなんて、人生何があるかわからない。
菅原君はやった! とまた私を抱きしめた。その温もりは暖かくて幸せな気持ちになった。


20150111



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