授業の終わるチャイムが鳴り、一斉に席を立つ男子生徒。男子は外でサッカー、そして女子は体育館でバレーボールの授業。
私はゆっくり教科書を机にしまい体操着に着替える。
体育の授業は私が一番嫌いな授業だ。運動音痴のため動きはノロいし、走るのもダメだ。
それに、汗をかきたくない。
「ねね!愛!次の体育三年生もいるんだって!」
嬉しそうな表情を浮かべ話しかけてきたのは友達だった。
それにしても三年生と半分半分で体育館を使うのは久しぶりかもしれない。
「もしかしたら牛島先輩いるかもね!」
「何でそこであの先輩が出てくるの!」
有り得ない。もう、関わりたくない。
そう思った私の心を見透かした友達はお腹を抱えて笑った。
そこまで笑うことないのに。
「どんだけ牛島先輩のこと嫌いなのよ愛は」
「・・・嫌いって言うか・・・よく分かんない人だから苦手ってだけ」
そう言うとふーんと友達は頷いた。
「愛〜早く行こう」
ふんわりとした髪を揺らした友達が私達を呼んだ。
「行こっか愛」
「体育やだなー」
自習にならないかなーと思いながら足取り重く体育館に向かう。
体育館シューズに履き替え私達は中に入る。
「今日は男子なんだね」
「ふーん・・・」
この間は女子生徒だったのに、今日は三年生の男子生徒が半分体育館を使っていて、どうやらコート作りをしているようだった。
「あっちもバレーボールやるんだね」
早く自分たちが使うコートの方へ行きたかった。しかし、友達の足は進まない。
「じゃ私先に行ってるから・・・って、げっ」
ちょうどバレーボールのボールが入ったカートを運ぶ作業をしている牛島先輩と目があった。
先輩は倉庫から中に出している所だった。
「愛、牛島先輩いたね!」
よかったねーともう1人の友達がふんわりと言った。
全然よくないでしょ!
私は嫌なんだけど。
その時授業開始のチャイムが鳴った。私達は急いで集合をした。
今日はどちらともバレーボールで体育館を二つに分けるため真ん中を分けた。
「はい、じゃあ体育館を5周ね」
準備体操が終わり先生はいつものようにランニングをするように指示をした。
皆は元気よく体育館を走りだす。最初こそ皆と一緒に走っていたが段々と距離が離れて行く。いつものことなので、先生や皆はなにも言わない。
ただ、どこからか視線を感じる。
「!?」
チラリと隣を見ると見事に牛島先輩と目が合った。そしてフッと馬鹿にされたような気がした。
そして先輩は何事もなかったかのように颯爽と走っていった。もちろん先輩は一番最初に走り終わっていた。
「っ、はぁっ……」
いつもより倍疲れた気がする。
「牛島先輩本当かっこいいよねー」
「ね、本当硬派ばところとか凄くいいよねー」
と、女子の会話が耳に入る。
「……かっこいい…?」
元々牛島先輩には興味すら無かった。かっこいいと言えば兄である力お兄ちゃんを指す言葉だと私は思っていた。それなのに、心の中がざわつく。
三年生はバレーの試合をし始め、牛島先輩は試合に向けて練習をしていた。
力強くスパイクを決める姿は部活と変わらない真剣なものだった。
授業でも手を抜くことはない姿勢に私は少しだけ感動した。
「それじゃ、試合始めー」
ピーと笛の音が響き、私達の試合が始まった。
笛の音がなかったらきっと、私は先輩をずっと眺めていたに違いない。
「愛ーそっちいったよ!」
友達の声にハッとまた我にかえる。
ボールは私の足元に落ちた。
「ご、ごめん!」
「もー愛しっかりしてよ」
ごめんとまた私はチームの皆と友達に謝った。チームで一緒の子達は暖かい笑みを浮かべていた。いつものことだし別に気にしてはいないようだった。
しかし、友達の目は怖かった。
私がボーっとしていたことに気づかれてしまったのだろうか。
よし今度こそはと、ちゃんとボールをよく見る。だが、ボールは私のところには来ない。
これなら大丈夫そうだなと一瞬気を抜いた。
「縁下さん、危ないっ!」
「……え?」
私は頑張ってボールを取ろうと腕を出す。けれど、ボールは私の顔に当った。
「大丈夫か」
「……どうして先輩が?」
私の顔を覗いていたのは隣にいた牛島先輩だった。どうして先輩がここに? と思ったが、考える暇なく私の体は宙に浮き驚きすぎて声も出なかった。
「保健室に行くぞ」
「な、な、何で先輩が……それより降ろしてください!」
先輩は目で無理だと言っているように見えた。私は先生に助けを求めた。先生はよろしくねとと言っている。
女子生徒は凄くキラキラした目で見てくる。
「……いくぞ」
「え、あ、ちょっと」
先輩は颯爽と私を抱き上げながら保健室までの道のりを歩く。
「一人で歩けるんで、本当降ろしてください」
「無理な注文だな」
さっきからこの話を繰り返している。
女の子なら誰しもが憧れるお姫様だっこを今されている。そう考えたら意地でも降りたくなる。
「でも、どうして先輩が……」
「意外に運動できないやつなんだな、縁下は」
「”意外”は余計です!」
フッと先輩は笑った。下から眺める先輩の顔は何故かかっこよく見えた。
20141023