どうして私は最愛の兄と同じ高校に行かなかったのだろうか。
烏野高校、兄はそこでバレー部に入って活躍している。一方で私は白鳥沢で帰宅部。
兄のように熱中するものもなかったし、私は兄だけが居ればよかった。電車に揺られ家に帰る。疲れて帰ってくる兄を癒すためにお風呂の準備に晩御飯の手伝いをする。
それが私の毎日だった。
「縁下さん、これ回してもらってもいい?」
「分かった」
前からまわって来たプリントを受けとる。それはこの間やったテストの模範解答だった。ああ、あのテストのことか。先生は難しいと言っていたがそうでもなかった。
「これ難しかったよなーな、縁下さん」
「……そうだね」
めんどくさい会話。隣の席の男子に話しかけられ私はため息をついた。この会話を何度繰り返したことか。テスト返しがあれば必ず私に聞いてくる。友達によると、私と競っているらしい。
私としては勝手にどうぞと言いたいところだ。
兄だったらきっとそんな野暮なことは聞いてこないだろう。
あーあ、隣の男子が兄のような素敵な人だったらよかったのに。
やっぱり兄を毎日ウオッチングできる烏野高校の方がよかったな。
同じ高校なら登下校一緒だし、お昼だって一緒にできる。
一日中兄にべったりできる!
「テストを返します。名前を呼ばれた人は前に取りに来てください」
先生は淡々と名前を読んでいく。
「縁下愛さん」
はいと私は立ち上がり先生のもとへ行った。
点数は100だった。
「満点は縁下さんだけでしたよ」
「そうですか……」
先生は笑顔で私に手渡した。
教室内はザワザワとうるさくなる。
「さすが縁下さん! 今度勉強教えてよ」
隣の男子は私の顔を見ながら笑った。
私の答えは決まっているじゃない。
「私、部活があるからごめんね」
本当は部活なんか入ってない。けれど、断りたいがために嘘をつく。私が部活に入っていないことくらい薄々気づいていそうだけれど。
「じゃ、バイバーイ」
放課後になり、私は友達を下駄箱まで見送る。私は靴に履き替え外に出た。
「縁下さん、一緒に帰ろう」
「っ!!」
この声は隣の……
私はゆっくり後を向いた。今すぐにでも走って逃げたい。
「ご、ごめん私行かなきゃ」
「え?」
私は引きつった笑みを浮かべ、その場から走って逃げた。逃げた先は体育館のある方だった。近くからは掛け声が聞こえる。
「追って来てない、よね」
良かった、諦めたようだ。普段運動をしないせいか息が切れる。
「帰ろう」
と思って歩きだした時、私の足元にボールが転がってきた。
そのボールはバレーボールだった。
「そのボール取ってくれないか」
「これ?」
私の前に現れたのは大きな男性だった。何だか見たことがある顔だなーと見ていたら、おいと言われ渋々ボールを手渡した。
「ああ、もしかして有名な牛島先輩でしたか」
「……それがどうかしたのか」
「いえ、別に。ただ、兄と比べていただけですからお気になさらず」
明らかに不機嫌になった先輩は鋭い眼光を向けた。
「別に気にはしないが、とげとげしいその言い方をどうにかしないか」
「私、バレー部じゃないんで」
上下関係ほどめんどくさいものは無いと私は思っている。
まったく、これくらいで説教するつもりなのだろうか。めんどくさい。
これだから熱血体育会系の先輩方は嫌なんだ。(兄は除く)
「名前は何だ」
「……縁下です」
それじゃと私はその場を去った。
名字を教えたのはフェアじゃないと思ったからだ。どのみちもう会うことはなさそうだし、適当な名前言っても良かったんだけど……ま、いっか。
早く帰って兄に会って癒しを補給したい。
20140929