◎ 1
携帯の画面に映し出されるのは彼のメール。私はそっと携帯の電源を落とした。
もう、彼の写真もメールも、何もかも見たくなかった。
私と飛雄君が出会ったのは烏野高校が梟谷と練習試合をしていたときの事。
私はまだ入りたてのマネージャーで、先輩の手伝いをしながら仕事を覚えていく途中だった。
手伝いだけで精一杯になっていた私の目を奪ったのは彼だった。世間一般ではこれを一目惚れと言うのだろう。
トスを高く上げる時の真剣な表情、そしてサーブを上げるときの凛々しい目。
周りのことが見えなくなって、彼だけがコートにいるような錯覚を覚えてしまった。
合宿最終日、バーベキューでお肉を頬張る彼を見て、もう会えないのかなとしみじみ影山君を見ると目が合い、私はフイッと目を反らしてしまった。私は居てもたっても居られなくなり、誰にも分からないようにそっとバーベキュー会場を後にした。
校舎裏の壁に寄りかかり座った。瞳から涙が零れ落ち、膝を濡らす。
「なんで、泣いてるんだ」
「っ!?」
私は声のする方へ振り向いた。そこには私を心配そうに見下ろす影山君がいた。彼の手にはタオルがあり、それを私の頭にかぶせた。
「何があったかは知らねえけど、これで涙拭けよ」
「あ、ありがとう」
まさか、想い焦がれている本人から心配されるとは思わなかった。嬉しいような、悲しいような複雑な気持ちだ。
いっそのこと彼に想いを伝えてしまおうか、そうすれば彼が帰ってからも苦しい思いをしなくてすむ。
よし……
「影山君のことが好きです!」
言った、言ってしまった。彼の顔がまともに見られない。今、どんな顔しているんだろう。
「俺も、よく働いてるお前をずっと目で追ってた。けど、俺は練習で忙しいし、その、なんだ。恋人らしいことってのが出来ないと思う」
それでもいいのかと彼は私と目を合わせるように腰をかがめ、真っすぐ私を見た。
その日から私たちは恋人同士になった。
「私が我慢すればいいんだよね……」
あれから数週間。今は春高に向けて練習真っ最中だと思う。メールは毎日送っているが、返事はまちまちだ。返事は特に期待はしていない。だって、彼の負担になるのは嫌だから。
けれど、メールを送らなかったら自然消失してしまいそうで怖かった。
こうやって彼のことを考えるのも、メールの返事を待つのも辛い。
「……お別れなんて嫌だよ」
嫌だけれど、このままなにもしないでズルズルと過ごすのも嫌だ。
「よし」
決めた。彼のもとに行こう。何となくパソコンに入っていた曲をランダム再生していたら、私の心を代弁するような曲が流れた。
「飛雄君のこと好きになればなるほど毎日切なくなる。でも、それも終わりにしよう」
私は荷造りを始めた。彼のもとに行こう。どこに住んでいるかも分からないけど、烏野高校に行けば練習はしているだろう。
会えなかったら、私たちはそれまでなんだ。それで諦めがつく。
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