40万 | ナノ

 及川 岩泉 夏祭り

日中の暑さはどこかに行き、夜は少し涼しくなる。
夜空には星がキラキラ輝いていた。

騒がしい夜の公園、しかし今日だけは特別だ。何故なら・・・・・・

「岩ちゃーん!」
手を振りながら走ってきたのは浴衣姿の女性だった。岩ちゃんと呼ばれた男は控え目に手を振った。それは周りの人のことを考えた行動だった。
彼の近くには大きな木があり、待ち合わせにはぴったりの場所だったからだ。
彼の周りには待ち合わせの相手を待つ人ばかりで、電車のラッシュ時のように混んでいる訳ではないが気をつけないと誰かとぶつかりそうになってしまう。

「あんまり走るなよ」
転けたらどうするんだと岩ちゃんは女性に言った。声色からしてそこまで怒っているようではなかった。

「時間に遅れちゃうって思って。あれ? 徹は?」
女性は辺りを見渡しもう一人を探す。彼女は何かを見つけたようで、ああと納得していた。

「徹はおいて行こっか」
「ま、そうだな」
キャーと女性たちの黄色い声が嫌でも聞こえてくる。

「クズ川置いてくからなー」
2人は女性たちが丸くなっている所をわざと通った。

「ちょ、ちょっと待ってよ2人とも」
行かないでーと女の悲鳴じみた声、そして黄色い歓声。
男はその集団の輪から上手く抜け2人の元に駆け寄った。

「なんだ、今年こそ彼女と来るんじゃなかったの?」
「冷たいなーなまえは」
なまえはハァと深いため息をついた。その隣の岩ちゃんも同じ行動をしていた。
「2人とも酷すぎでしょ」
え? どこが? とでも言いたそうな目でなまえは徹を見た。

「いっつも徹はこの季節になると彼女と別れるよね」
どうして? となまえが不思議そうな顔して徹に聞いた。

「何でそれ聞くかなーその話は後々。なまえかき氷食べよう。岩ちゃんの驕りで」
「誰が奢るって?」
岩ちゃんの目は笑ってなかった。結局、かき氷を食べたのはなまえだけで、2人は焼きそばやたこ焼きなどを買い込み静かな場所を探した。

3人はビニール袋を手に持ち、人混みの中歩いていく。

「そう言えば、なまえその浴衣いいね」
「その柄昔見た気がすんだよな・・・」
うーんと岩ちゃんは首を傾げた。なまえはニコニコとその答えを待っている。

「ほら、岩ちゃん。昔着てた浴衣と柄が一緒なんだよ」
「ピンポーン! 徹よく分かったね」
なまえの顔がパッと明るくなった。
岩ちゃんはなるほどと呟き、なまえの浴衣をまじまじと見た。

「この間買い物に行ったら見つけたの」
いいでしょーとなまえは2人に見せびらかす。

「ああ、似合ってる」
「岩ちゃんありがとう!」
それを見てフフンと鼻をならしたのは及川だった。 

「なまえその柄好きだね」
「子供っぽいってバカにしてる?」
確かになまえの柄は少し子供っぽいかもしれない。けれど、なまえにはよく似合っていた。

「大人でも子供でもないってか」
「そう言うこと」
お祭りの音と、人々の声でなまえには2人の声が届いていなかったようだ。彼女は聞き返すが2人は何でもないとはぐらかす。

「なまえこっち」
2人はなまえの手を取り彼女を誘導する。
3人が手をつなぎながら移動する。

「あっ、見て!」
なまえは大きな音に反応し上を見上げた。黄色い花火が夜空を舞った。人々は皆立ち止まり上を見上げ感嘆のため息をついた。

「綺麗・・・」
溶け始めたかき氷。

「また来年も」と徹は呟き、それに続けて
「この3人で」と岩ちゃんが言った。
その言葉は花火の音に掻き消されることなくなまえの耳に届いた。

「もちろん、来年も3人で来ようね」
なまえの言葉に2人は大きく頷いた。

「あっ、でも徹は彼女と来てね」
「え! なまえ酷い!」
「冗談だよー」
クスクスとなまえは笑い、岩ちゃんはドンマイ! と徹の背中を叩いた。




20141207



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