◎ 2
着いたのは昼前だった。烏野高校を前にして、私は足が動かなくなっていた。飛雄君はいるだろうか、私のこと覚えているだろうか、無視されたらどうしようとか……不安で胸が押しつぶされそうだった。
その時近くから声が聞こえた。体育館だ。私はその声を元に一歩一歩ゆっくり歩きだした。
体育館にある小さな窓からのぞきこむ。そこには真剣な目でボールを追う彼の姿があった。かっこいいと目が自然と彼を追う。梟谷の選手もかっこいいが、それとはまた違ったかっこよさ。
「っ!」
ジッと見ていたら彼と目があった。私も驚いたが、彼も驚いたようで、口をパクパクしていた。
「もう少しで終わる」
と言ったように見えた。
どうやら練習はお昼で一旦終わりのようだった。
練習が終わり、走って来たのは彼だった。その姿をみて私の心は躍った。
私のことを覚えてくれた、それだけで嬉しかった。
「影山に彼女かよっ! ったく、羨ましいぜ」
「すみません、田中さん少し出てきます」
田中さんと呼ばれた人は分かったと行って中に入っていった。
「いい先輩だね」
そう言うと「ああ」と答えた。ああ
「それより、どうしてここに来たんだ」
「……言いたいことがあって来たの」
?が彼の頭に浮かんだらしい。彼の顔はキョトンとしていた。けれど、すぐに意味が分かったようで真剣な顔つきに変わった。
「俺、やっぱりなまえの彼氏として失格だよな」
「失格なんかじゃないよ、飛雄君はかっこいいし、むしろ私にはもったいない人だもん」
じゃあ何でと言いたそうな顔で私を見た。私は息を大きく吸い、彼に言った。
「飛雄君のこと大好き」
最初で最後の告白にしようとしてここまで来た。
「俺もなまえのこと」
目の前には彼の顔があった。
「キスしてもいいか」
そう言って彼は私の返事を聞かずに唇にキスを落とした。
20140927
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