シリーズ | ナノ

 3.100%ないから安心しろ

「どうして若ちゃんは私とお話してくれるの?」
「……なんだその呼び方は」

部活が終わり、私たちは一緒に下校する。今日は下校前の部活の備品チェックを二人で行っていた。私はバレー部のマネージャーではないが、牛島君と一緒に下校するのは嫌だと言われ私が喜んでその任務を預かった。

「なんか可愛いかなって思って呼んでみましたー若ちゃんがダメなら若様?」
「お前も手伝え」

反応が薄すぎるため、はいはいと私は手元の表を見てから備品の数を数える。

「……何故油井は執拗に俺に付きまとうんだ?」
まさかそんな言葉が帰ってくるなんて想像もしていなかった。彼はてっきり私を邪魔な人間だと思っていると思っていた。

「なんでって言われても若様のこと好きだから……かな」
「そういうものなのか」

そういうものって何だ。
彼は真顔でそう言ったので、私はどう反応していいのか分からない。告白っぽいこと私言ったよね? 好きって若様に言ったよね? え、聞こえてなかったとか?

「最初の質問だが、油井が話しかけてくるからそれに返すだけだ」
「え、その話? どうしたの若様、話飛びすぎじゃない?」

私の告白はどうなった?

彼は黙々と備品を数えて行く。今日の若様は何かがおかしい。何かあったのだろうか。部活中はいつも通りだったし、私のこと嫌いなのかな? でも、嫌いな人間とこうして長々話したりしないだろうし、腕とかにひっついても女でも容赦なく突き飛ばしそうな人間だ。

「いや、ふと考えたんだが。俺のことをいろいろな呼び方で呼ぶのはお前だけだなと思ってな」
「あー……そうだね」

皆怖がって彼と話す時おどおどしているし、一番よく彼と話しているのは私とバレー部の人達だけだ。見た目とオーラが凄まじいだけで、そんなに怖くないのになぁと思うが、近寄りがたいのだろう。

「呼び方変えるの迷惑だった?」
「いや……油井が好きなように呼べばいい」

私の呼び方もそろそろ名字呼びじゃなくて夢子って呼んでほしんだけど、まだまだ先は遠そうだ。

「ボールは数通りあるな。帰るぞ……って何をしているんだ」
「いや、ちょっとさ……あっ、お願いがあるんだけどいい?」

なんだと至極嫌そうな顔をされたが、そんな顔も素敵なのでご褒美として受け取った。私はボロボロになったボールを彼に投げて渡した。彼は華麗にキャッチをして、私を訝しげに見た。

「私の顔面にボールをぶつけて!!」
「……馬鹿が」

彼はそう言ってボールを元の場所に入れた。彼の冷たい目線にドキドキする。

「俺がボールを人にぶつけるようなミスは100パーセントから安心しろ」
「じゃ、私からぶつかりに!!」

そう言ったら、倉庫の鍵を締められた出られなくなった。いつの間に私の視界から消え、倉庫の外に行ってしまったのか……

出られなくなった私は何度も何度も彼の名前を呼んだり叫んだりした。数分後、変態は治ったか? と扉を通して質問を投げかけられた。

「治った、治ったから出してくださいオネガイシマス!」

そう懇願したら彼は何も言わず鍵を開けたくれたのだった。



20140715


prev / next