シリーズ | ナノ

 2.盗撮が犯罪って知ってますか?

アルバイト代を貯めて買った念願のデジカメを使ってやることと言ったらただ一つ。牛若の写真を撮りまくる! それだけだ。真剣にバレーをしている所、着がえる前後、汗だくになりながら走る彼……登下校、教室が違うから授業中は残念ながら撮れないが、なんとかしよう。

「なんだ、これは」
「……ぬわっ!!」

後ろからぬっと手が伸びてきて私のカメラが一瞬にして無くなってしまった。いったいどうなって……と思ったら、後ろの牛若が持っていた。しかも、いじり方が分からないとでも言うようにカメラを凝視している。
何これ可愛い……

「もしかして、牛若って機械とか苦手?」
そう言うと牛若にギロリと睨まれた。初めて会った時も怖いという感情よりも、かっこいい! という感情が芽生えた。人は私のことを口をそろえてドMだと言う。

「何だ、中見てもいいのか」
「だ、ダメだよ! 絶対ダメ!」

牛若はそうかとカメラの電源を押した。すると、起動し始め、レンズが出てくる。

「どうせ、変な写真ばかりなんだろう?」

変って失礼な。この中には私のお宝がたくさん入っているんだから。

「この中には牛若の練習姿とか、汗をふく所とか…たくさんお宝が入ってるの」

「……言うと思った」
呆れた顔で彼は言った。その目はどこか遠い所を見ていた。私変なこと言った?

「おーい、牛若ー大丈夫?」
「牛若と呼ぶなと何度も……頭が痛くなってきた」

大丈夫? と心配するがキッと睨まれた……幸せ。

「あっ、ほらこれなんかベストショットだと思うんだけど」

と、牛若に私の一番の写真を見せた。

「盗撮は犯罪だと思うが……油井としてはどう思う」
「え? 盗撮?何のことだか分からないな…」

彼の影が私に覆いかぶさり、圧巻される。腕を組み、バリバリに怒っている。

「い、いえ、これはその……部室に忍び込んだりとかじゃなくてですね、その……あの…さよならっ!」

私はその場からダッシュで逃げた。彼は追っては来なかったが次の日学校で会ったら怒られるに違いない。もしくは、カメラの没収…
そうならないために、SDカードだけは抜いて、新しいものを入れておこう。

さ、家に帰ったら印刷、印刷ーっと……あれ? SDカードの中身をチェックするとそこには何もデータが入っていなかった。おかしい。もしかして、牛若データ消した? 

「データ消えてしまってたか、すまない」
「もしかしてデータ消した?」
走って私のところにきた牛若に尋ねた。

「いや、どんなものかといろいろなボタンを押していただけだが」

彼の瞳はいつもと変わらずだった。彼は嘘をついてはいないだろう。だけど、データはもう帰ってこない。

「じゃあさ、ピースして撮ってもいい?」
「……嫌だと言ったらどうする」
「ボールに落書きする」

低レベルだなと彼は呟いたが、どこかその表情は柔らかかった。
その顔は……ずるい。

彼はピースはしてくれなかったが、バレーボールを持たせ何枚か写真を撮った。

「ピースしてよ! ピースっ!!」
とせがむと、彼は折れたがピース以外ならいいと言うことになった。

「……はい、チーズ」

カシャと音が聞こえ、私たちは二人並んで写真を撮った。若利は仏頂面だが、少し困った顔で、私は笑顔でピースして……

一生の宝物にしよう。


20140714



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