シリーズ | ナノ

 0日目番外編

その日、出席番号の近い男が俺に話しかけてきた。

「なあ、牛島。来週の日直変わってくれないか?」
「別に構わないが……何かあったのか?」
男は口をもごもごさせ、言いづらそうにしていた。補習にでもなってしまったのか、それとも部活動や委員会活動のためだろうか。

「俺、バイト始めたんだ」
バイト? と俺は男に尋ねる。アルバイトは基本的には禁止だが、先生達の許可が降りれば自由にできる。

俺は部活が忙しくてとてもじゃないけれど、アルバイトはできない。

「初めてできた彼女の誕生日プレゼントを買いたいんだ。だから、短期でバイトを始めたんだ。な、牛島このとーり!」

男は俺に頭を下げた。まさか、ここまでされるとは思わなかった。もしかして、そんな理由だから俺が怒るとでも思われているのだろうか。

「別に俺はそれでもいいが……相手は誰だ?」
日直と言えば、二人一組で行う。相手は誰でもよかったが、欲を言うならば仕事が早いパートナーがいい。それなら部活にも支障は出ないだろう。

男から相手の名前を聞いて、すぐに探した。相手は後の席で楽しそうに話をしていた。


「もー夢子ってば」

「わ、笑わないでよ!」
そして近くには困った顔をしている油井さんの姿があった。困った顔の後、すぐに笑顔になり笑っていた。


何故だかその笑顔に引きつけられた。

しかし、今まで一度も話をしていないし、どこか避けられているような気がする。

そして、日直初日。黒板に書かれた当番の名前を見た。そこには自分の名前と油井さんの名前が書かれてあった。

「油井さん、おはよう」
日誌を取りにいき、固まっている油井さんに挨拶をした。どこか距離が離れていて目も合わせてくれなかった。

こんな調子で一週間も過ごすのかと少し憂鬱でもあった。しかし、彼女がなぜ自分と距離をおくのか聞いてみるチャンスでもあった。

20141102





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