シリーズ | ナノ

 猫と若利

道端でしゃがみ込んでいる彼を見つけた。声をかけようかと迷っていたらある声が聞こえた。その声は猫の声のようだった・・・

にゃーんと甘えた声を出す茶色の猫。そして、彼はおずおずと指を差し出す。すると、猫は匂いを嗅ぎペロリと指を舐める。

彼の顔は緩みきっていた。いつも怖い顔をしている若利君が、あんなにも緩んだ顔をしている。そんな顔を見たのは初めてで、少し猫に嫉妬してしまう。

指を舐められて気分をよくしたのか、彼は猫の頭に指を置いた。

「ここがいいのか……」
声もなんだか優しげだった。猫も満更じゃなさそうにゴロゴロと喉を鳴らす。彼の指は猫の頭から鼻筋へと優しく動く。そしてその手は、体へと動きまたゆっくり、猫を堪能する。

私はゆっくりと近づき、若利君を見下ろした。猫は私の顔を見るなりにゃーんと猫なで声で鳴いた。

「若利君、猫好きなの?」
猫はタタッと走り、私の足元にすり寄ってきた。

若利君はそれを見るなり複雑そうな顔をした。

「なんか、ごめんね……」
猫は嬉しそうに私の足元をスリスリする。

なんて人懐っこい猫なんだろうか。私は屈み、猫の頭を撫でた。

「よしよし、君はいい子だね」
ゴロゴロと喉を鳴らし、私の元から離れない。

「オスだったのか、この猫は」
「え?」

ぼそりと彼が呟いた。
彼は私の手を握り、強く引っ張った。無理やり猫と離されたため猫はポカーンとした顔をして座っている。
私はその猫の顔を引きずられながら見ていた。猫が見えなくなると、彼は手を放した。

「急にどうしたの?」
「……ただの醜い嫉妬だ」

若利君はそう言い残すとそそくさと歩きだす。
私は待ってと言いながら彼の後を追った。

「私だって嫉妬したんだから」

彼の一歩後を歩きながらボソリと呟いた。
若利君は少し歩みを緩め、私と並び手を握った。

彼の手は暖かく、二人の影は手を繋ぎ仲よく並んでいた。


20140921


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