シリーズ | ナノ

 2日目

「本当にごめん! まさか牛島君だとは思わなくてさ……」
朝から雪だるまは私に日直のことで謝るのだけれど、頭の中は昨日のことでいっぱいだった。

朝、分担を決め私は言われた通り日誌に取りかかった。けれど、終わったのは放課後だった。
書くのが遅いせいで、最終的には牛島君が日誌を書いた。仕事が終わったのはHRが終わってから30分後だった。
彼はバレーボール部で、主将のポジションでかなり有名な人らしい。

そんな凄い彼を私の鈍さで大切な練習時間を潰すわけにはいかない。


「本当私って鈍くさいよね……」
「え、夢子? 急にどうしたの?」

「あっ、う、ううん、何でもない」
昨日そう決心して今日だって、授業の事を日誌に書いている。そう、今は5時間目。書き終わったのは3…時間目…


「うわー・・・これ終わるの?夢子?」

「がん・・・ばる・・・」
そっか、と雪だるまは私を励ますように、はちみつ味の飴を書きかけの日誌の上に置いた。

「ありがとう雪だるま」
「後でまたジュースでも奢るね。あっ、そうだ夢子あの話知ってる?」
「あの話?」

話を聞いてみると牛島の話だった。どうやら彼も私と同じく友達の代わりで日直をやっているらしい。
まさか同じ理由なんて思わなかった。

「油井さーん、次の授業まで時間ないから黒板消した方がいいかもー」
雪だるまの話に耳を傾けていると、前から私を呼ぶ声がした。

前の時間(昼休み)、この教室では体育委員会の会議で使われていたらしく、黒板にはいろいろ書かれていた。
その文字は右に曲がったり、真っ直ぐに書けず少し傾いたりしていた。

「あ、うん。分かった!」
「手伝おうか?」
「これくらいなら平気だよ」

男子は今水泳の授業で、私達は体育館で授業だった。あまりの暑さのため思いの外早く授業が終わったため教室には女子だけしかいない。

「よーし」
気合を入れ、私は端から順番に消していった。ピンクなどの濃い色は中々消すのに苦労した。

黒板を消し始め随分と時間が経ったような気がする。
もう終わりに近いはず……

「……まだ半分もある」
次の時間までまだ時間はあるが、このペースでは終わるかどうか分からない。それよりも深刻なのは、身長の問題で上の方が消せていないことことだ。
背を伸ばしても少ししか消せない。
どうしようと黒板消しを持ちながら考えていた。教室には男子が水泳の授業が終わり着替えが終わった人から戻ってきていた。

「どうしよう」
あんなに意気込んだと言うのに、もう少しで牛島君が来てしまう。そしたらまた手伝わせてしまう。そうしたら、意味がない。

「俺がやる」
「……っ!?」

背後からぬっと出てきたのは牛島君だった。彼は私の後ろに立ち、上の方を消し始める。近すぎる距離に胸がドキドキする。こんなにも男子と接近したことがない私にとって、これはかなり刺激が強い。

「油井さんは残りを消してくれ」
「う、うん。分かった」

いつの間に来たのだろうか。彼は私よりも早く消し終わり、すぐに自分の席に戻り、プールバックをロッカーに入れに行った。


「お疲れー夢子」
「うん、ありがとう雪だるま……」

ロッカーに荷物を入れに行ったということは、もしかして教室についたらすぐに黒板を消しに来たのだろうか?

「牛島君さー夢子が困ってるのを見てすぐに黒板消しに行ったんだよ。意外に優しいんだね、彼」
そんなに急がなくてもまだ時間あるのにと雪だるまは付け足した。

私は自然と彼を目で追っていた。


20140822









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