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「やっぱり、クロとかリエーフとかも呼べばよかったね」
あーあ、と今更ながらに後悔をしている彼女を横目にトンネルを目指して歩く。おれの家から近いと言っても歩いて20分はかかる場所にあった。
「ここがトンネルかー」
「ここで間違いないと思うけど……親にも聞いたけど、ここが幽霊スポットだなんて聞いたことないって」
雑誌に載っていた場所に来るとそこはガランとしているだけで特別何かあるわけではなかった。しいて言うなら、墓地があって近くに公園のような場所と寺があるくらいだった。この場所は市と市を結ぶ橋の近くにあり、川沿いにまっすぐ伸びている道路に隣接している。
車の通りは比較的緩やかで今まで歩いてきた中で車を見たのは1台だけだった。なぜなら、この道から都内に行くのは遠回りで、ここから行くよりも新しく出来た道を走るか、この橋を渡るかのどちらかの方が早い。
「あっ研磨君見てこれ」
「その数珠……」
夢子はおれに手首を見せた。細い腕には赤い数珠があった。それを見て汗が出た。夕方と言ってもまだ日差しは強い。そのせいだろうと思ったが不快感だけが心に残った。
「おばあちゃんが持っていけって。すごく心配そうな顔してたけど大丈夫だよね」
大丈夫だろうとは思う。なぜなら、今は完全に日が落ちたわけでもない。夕方で周りはとても明るかった。けれど、ここで夜を迎えれば、街灯の少なさから言ってかなり不安になるだろうし、恐怖は増す。
夢子は懐中電灯をカチカチ電気を入れたり消したりを繰り返していた。電池があるかみているようだ。
「よし、電池もあるし、携帯の充電もばっちり」
「あ、ああ」と返事をするくらいしかできなかった。あの数珠を見てから不安な気持ちと不快感がおれの心の中を占めていた。何となく嫌な予感がする。
彼女を止めるのは今しかない。けれど……
「研磨君のもあるから安心して」
「あ、ありがと……」
トンネルに行くのが楽しみで仕方がない夢子に向かって止めようなんて言えなかった。
何も出ないことが分かれば彼女も飽きるだろう。話によれば幽霊トンネルに行くには墓地を通るらしい。道路用のトンネルではなく雑誌に書いてあったのはこっちのトンネルのようだった。
「暗くなる前には帰るから」
「うん、分かった」
そう、暗くなる前には家に帰る、これは約束でもあった。何かあってからでは遅いので親には暗くなったら迎えに来てもらうように言ってある。
彼女はよし! と元気よく墓地に入って行く。おれはその後を歩いた。
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