シリーズ | ナノ

 1

小さなトンネルを抜け、右手を見ると墓地があった。その場に肝試しに行った男女のグループは肝試しから帰ってくるなりこう言ったという。

「黒い化け物がいる」と
数日後、車の後部座席に乗っていた二人は発狂し、行方をくらましてしまった……


「ここ、行ってみようよ!」
「また心霊スポット巡り……もういい加減やめた方がいいと思うけど」
恋人の夢子が読んでいたのは心霊スポットが載っている雑誌で、夢子の愛読書だった。夢子は心霊スポットに行くのが趣味だと親友達には言っているらしいが、本当はまだ一回も行ったことがない。それを知っているのは恋人であるおれぐらいだ。

「今回も入口まで行って帰るんでしょ?」
「あれ、これって研磨君の家の近くじゃない?」
聞く耳を持たない夢子はどんどんと話を進めていく。

「……そうだけど」
 確かに雑誌にあった地名は自分の家があるところのようだった。多少もじられていたので本当に自分の家の近くかは分からないが。
でも、確かに……トンネルを抜けたら墓地があるところがあったな。心霊スポットだったなんて全然知らなかった。

「そうと決まれば行くしかない!」
「それ本気で言って……」
そう聞くともちろん!と大きな声で夢子が答えた。こうなったらもう誰にも止められない。
 夢子はそわそわし始め、なぜかイメージトレーニングを始めた。おれも霊感はないし、何かあれば家に帰ってくればいいと思ってしまった。


でも、今振り返れば、なんとしてでも止めればよかったと後悔している。



20140818


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