シリーズ | ナノ

 1日目

今週一週間は日直だ。だから朝早くに学校に行って何かをする、と言うことはこの学校ではない。
主な仕事は黒板の掃除・日誌・先生の雑用・・・などそれくらいだ。今週はテスト週間でもテスト前でもないため、比較的楽な週だ。

「おはよー」
いつものようにHRが始まる20分前に学校に着き、クラスメイトに挨拶をする。雪だるまは部活に出ていてまだ帰っては来ない。

「えっと、一時間目は・・・っと」
私は自分の席に着き、一時間目の授業を確認する。

「油井さん、おはよう」
「えっ? ああ、日誌・・・えっ?」

私は驚いて相手をジッと見てしまった。変な汗が出てきた。
目の前には私の苦手な牛島君がいて、しかも彼は手に日誌を持っていた。

「日直はお前だろう?」
「う、うん・・・・・・」
彼はそうかと頷き日誌を私の机の上に置いた。

「あ、ありがとう」
きっと朝先生に偶然会い、日直に渡すように言われたのだろう。うん、そうに違いない。

「俺が黒板を消す代わりに油井さんが日誌を書いてくれないか?」
「えっと・・・・・・牛島君が黒板当番で私が・・・え?」
あれ? 何この展開、突然すぎて頭が上手く働かない。
ポカンとする私を見て彼は顔色を変えず黒板を指差す。
そこには有り得ない名前が書いてあった。

「牛島君と私が日直・・・・・・っ!?」
これは夢か悪夢か。
夢なら早く覚めてほしい。

「知らなかったのか?」
「うん・・・ごめん、驚いちゃって」
別にと呆れたような、興味がないのか分からない態度をとられ、私は彼ともう一生目を合わせられないような気がする。

「それで、さっきの案でいいな」
「うん、大丈夫」

分担してくれるのはありがたかった。これなら何も変わらず一週間が過ごせる。

牛島君はそれだけ言うと自分の席に戻っていった。
残されたのは日誌だけで、私はページを開き自分の名前と牛島君の名前を書いた。

あれ、牛島君の名前なんだっけ・・・黒板を見ても名字しか書いていない。前の人のページにはフルネームで記入してある。
どれもそうだ。

「あっ、あった!」
若利か・・・名前と顔が似合っていると言うか、何というか・・・

「俺の名前がどうした」
「っ!? な、何でもない」
ぬっと音も立てず、彼がまた私の机の前に立つ。

「油井さんとは今年初めて同じクラスになったんだったな」
私が彼のみ名前で悩んでいたことが分かったようで、彼は私のシャープペンシルを持ちスラスラと書き出した。

「あ、ありがとう。牛島君、字綺麗だね」
「・・・・・・これくらい普通だと思うが」

うっ・・・チラリと私を見て何を言うかと思えば、聞こえたのは私の胸をぐさっと抉る言葉だった。

「そっか、そうだよね・・・」
何でも完璧にこなす彼に欠点などなかった。


その日は分担作業のため朝以降話すことはなかった。

20140815

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