力持ち


コーチや監督に挨拶をして回ったのが二日目。二日目は一日目と大体同じく練習風景を見ながらノートと睨めっこをしていた。

「おい、藍」
「あっ、黒尾先輩! どうしました?」
ニヤリと笑いながら黒尾先輩は言った。

「今日は倉庫からこれ出しておいてくれ」
「結構ありますね・・・・・・分かりました、出しておきますね」

渡されたリストはボールやらネットやら部活で使うものばかりで、リストには入れ替えのためと書いてあった。

「クロ、さすがに利根川さん1人でこれは・・・」

心配そうに私に目を向けるのは夜久先輩だった。その後ろには海先輩もいた。

「ランニングから帰ってきてから手伝えばいいだろ」
「私なら大丈夫です。皆さんランニングに行ってください」

そう言うと、夜久先輩のため息と分かったと言う声が聞こえた。

「そんじゃ、俺たちはランニング行ってくる」

頑張ってねと夜久先輩の心配そうな声が聞こえた。私は、はいっと自分なりに元気よく返事をした。
マネージャーとしてはまだ仮で体験のようなものだけれど、中途半端じゃなくてちゃんと仕事をしたい。

今まで転校ばかりでろくに部活動をしてこなかったし、入部してもすぐ転校しちゃうからと親しい人をあまり作らなかった。
ゲームやマンガ、ドラマなんかでよく見る熱い部活動が目の前にある。
そして、そこには私が夢に見ていた青春がある。

「・・・う・・・それにしても・・・重い・・・」
軽い物はすべて外に出した。だが、倉庫に残ったのは重い物ばかりだ。特にこのポールは1人では持ち上げることすらできない。

「利根川さん、端、持って」
「あっ、研磨君っ! 2人じゃ無理だからもう1人くらい呼んで・・・・・・凄い」

ランニング終わりなのか、それとも今部活に来たのかは分からないが、倉庫に研磨君が現れ、ポールの中央を持った。研磨君だけでは持ち上げるのも無理だと正直思った。
けど、違った。研磨君は易々とポールを持ち上げたのだった。私は少し力を入れる程度ですむので、重くはない。

「あー! 藍さん俺も手伝いますよ!」
「あっ犬岡君、ありがとう」
「犬岡は下のポール」

倉庫に入って来たのは元気一杯の犬岡君だった。犬岡君は私の前に立ち、私の触れている端の部分から中央よりの所を持った。凄く距離が近く、手も少し滑ったら触れてしまいそうだ。

「えーいいじゃないですか研磨さん! こっちの方が早く運べますって」
「こら、犬岡、お前は力有り余ってるんだから1人で運べ」

後ろから見ていた黒尾先輩の一言が効いたのか犬岡君はしょんぼりした顔でポールを持って行く。

「じゃあ、私たちも持っていこうか」
「・・・・・・うん」

せーのと言うかけ声でポールは持ち上がり外に向かう。

「研磨君って力持ちなんだね」
「・・・・・・そうかな? おれよりも虎とかの方が力あると思うけど・・・」
「だって、このポールなんて私ひとりじゃびくともしなかったし・・・やっばり男女の差って埋められないもんね」

研磨君はクスリと私を見て笑って言った。

「じゃあさ、また力仕事を押し付けられた時呼んで」
「え? でも、いいの?」

あの研磨君が自ら言っているのだから疑ってはいけないのだろう。けど・・・あの研磨君が・・・

明日は雪でも降るのかな?

「雪は・・・降らないと思うけど」
「な、何で私の心の声を知ってるの!?」

ポールを指定された場所に置き、研磨君は私に近づき、私の視線に合わせるように少し屈んだ。

「顔に書いてあったから、かな?」
「研磨君っ!?」

研磨君は私の頬を人差し指で優しく撫でた。彼はふわっと笑い、すぐ体育館へと足を進める。

「研磨さーん、藍さーん! スパイク練習始まりますよー!」

犬岡君の声でハッとした私は、急いで研磨君の後を追い体育館へと入っていった。

走って体育館まで行ったせいか、さっきの出来事でなのか、それとも両方のせいか分からないが、胸がドキドキする。


20140806


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