見学の日


放課後になり私はバレー部が練習している体育館へと急ぐ。研磨君は着替えがあるからという理由で先に行ってしまった。
どこか不安げな顔をしていたのは何故だろうか。

やっぱり見られながら練習するのって恥ずかしいのだろうか。そんなことを思いつつ体育館へと急いだ。

「よっ、藍。随分早かったな」
体育館に着くと私を待ち構えていたように、主将である黒尾先輩が柱にもたれながら待っていた。 

「お待たせしてすみません・・・・・・」

「そんな待ってねーよ。それに、そんなに堅くならなくていい」
頭にポンと先輩の大きな手が乗せられた。

「なっ!」
「これくらいで顔赤くするなよ」
意地の悪い笑みを浮かべ、先輩は私の顔に合わせるように屈んだ。

「クロ、皆を集合させたけど・・・・・・何してるの」
「あっ研磨君!」

体育館の出入り口から来たのは不機嫌そうな研磨君だった。その声はいつもよりも低く少し怒っていた。

「ごめんね、私が見学したいなんて無理言ったせいで」
「利根川さんが謝ることじゃないよ」
「でも・・・・・・」
研磨君は私と黒尾先輩の間に入った。何だろうかこの空気感は・・・張り詰めた空気に私は何もできないでいた。

「ほら、皆待ってるんだろ? 行くぞ」
最初に喋ったのは黒尾先輩だった。
ニヤリと黒尾先輩が笑い、私の腕を引っ張りながら体育館の中に入った。
体育館シューズに履き替え、空いているシューズボックスを探す。
どれも私の上履きよりも一回りも二周りも大きく、一体どんな人が履いているのだろうと妄想を膨らませる。

「ここ、空いてる」

「あっ、本当だ。ありがとう研磨君」
研磨君が指差したのは一番下。私は研磨君にお礼を言い、体育館シューズに履き換えた。

「履き換えたらこっち来い」
「あ、はい!」

緊張してきた……皆を集合させたってことは自己紹介するってことだよね。噛まなければいいけど……

「利根川さん、大丈夫?」
「う、うん、なんとか」
研磨君が優しく話しかけてくれたおかげで私の緊張が少しだけ和らいだ。

見学だけなんだし、そんなに気負う必要はどこにもないのだけれど、嫌な予感がする。
研磨君の顔はどこか諦めたような呆れたようなそんな顔をしていた。

「よし、皆集まってるな」

黒尾先輩に手を引かれ中に入る。そこには部員が綺麗に並んで立っていた。前列にいたのは前に私のことをジッと見てた人だ。その男性は私をまたジッと見ていた。怖くて俯いた。

「利根川さん、虎はあんな顔だけど、優しいから大丈夫」
「そ、そうなの……?」

恐る恐る顔を上げるとばっちり目があった。よく見ると頬が赤く染まっているような。もしかして女性に慣れてないだけ……なのかな?
でも、研磨君の言う通り悪い人ではなさそうだ。

「今日からマネージャーになる利根川藍だ」
「マネー……ジャー? えっと、あの、誰がですか?」
そう黒尾先輩に聞くと笑顔でよろしくなと言われた。

「クロ、いきなりマネージャーにするのは……」
「そうですよ黒尾先輩!」
「分かったよ、仕方ねえな……じゃあ、仮マネージャーってことでどうだ?」

先輩が言うにはお試しのマネージャーということらしい。元々、女子マネージャーがいなかったため大抵のことは部員がやるので、大変なことはないらしい。
それに、嫌になったらいつでも辞めてもいいそうだ。

「いい条件だと思うけどな? な、研磨」
「……利根川さんがマネージャーになれば部員の士気が上がると思う」

だろ? と同意するように黒尾先輩が頷き部員を見渡す。
私は周りを見渡し、深くお辞儀をした。

「仮マネージャーになりました利根川藍です。バレーのことはあまり分かりませんが精一杯頑張りたいと思います。よろしくお願いします」
大きな拍手が聞こえた。その音同時にバタンと大きな音が聞こえた。
顔を上げると虎と呼ばれた男性が倒れていた。

「ったく、これくらいで何を興奮しているんだか」
黒尾先輩の舌打ちが聞こえた。その言葉とは反対に行動は迅速で、部員に指示をだしていた。

「今日は取りあえずそこの隅で見てて」
「うん……でも、大丈夫なの?」
「少し放っておけば大丈夫だと思う」
五月蠅くなると思う、と研磨君は少し間を開けたのち付け足した。

私はその日部活が終わるまで見学をしていた。
これからの学校生活が凄く楽しくなりそうな気がする。

20140723


戻る