お昼休みの出来事
学校にも慣れ、友達も数人だができた。もちろん方言はあまり出さないように気をつけてはいるけれど、ふとした瞬間出てきてしまうこともある。
方言が出てきても友達はそれは藍の一部だからと、からかったり馬鹿にしたりはしない。
研磨君の言う通り、訛ってても誰かしら受け入れてくれる。
昼休み、研磨君とは離れ友達とお弁当を食べる。研磨君は紙パックのジュースを片手にゲームをしている。研磨君は部活以外、人とは関わらないと言うことを学んだ。私は彼の貴重なゲーム時間を邪魔していたってことだ。
邪魔していたにも関わらず、彼は私に優しくしてくれた。彼の隣の席になれて本当に運が良かった。
「ふーお腹いっぱい」
お昼を食べ終え、私は友達と談笑をしていた。その時だった。大きく後のドアが開いた。教室にいた生徒の視線を集めたのは背が高い男子生徒だった。
「おい、利根川はいるか」
「えっ?」
何で私の名前を…? 気のせいだよね、利根川なんてどこにでもある名字だし。クラスに同じ名字の人がいるに違いない。うん、そうだ、そうに違いない。
「……クロ、どうしてここに」
研磨君は気だるそうに席を立ち男性の方へと向かった。研磨君の知り合いだと分かると皆の視線は一斉にそれた。告白だと思ったと友達の一人が呟いた。なるほど、呼びだして告白か…一度は憧れるシチュエーションだ。
「すごく…視線を感じるんだけど……」
後ろから視線を感じる。振り向きたくない、振り向いたら何かに巻き込まれそうで怖い。
「藍を凄く見てるけど、知り合いなの?」
「転校してきたばかりだし、知り合いなんていないけど…」
研磨君の知り合いと言うことはバレー部の人なんだろうか。
「お前か、研磨が言ってたバレー部を見学したいって言った女子は」
「クロ、さすがにここだと…」
「心配しなくてもすぐ終わる」
研磨君の心配そうな顔。そして、長身の男性。バレー部を見学…確かに見学したいとは言ったけれど…この人は一体?
「俺は3年黒尾鉄朗。バレー部の主将をやってる。いきなりだが、今日の部活見学に来ないか?」
「クロ、ちょっと急なんじゃ……」
確かに急な申し出で、私も驚いている。けれど、バレー部を見学できるという魅力的な誘いを断ることなんてできなかった。
「よろしくお願いします」
「おう、よろしくな」
黒尾先輩は私の頭にポンと手を置き、じゃあなと言って教室から出て行った。研磨君は追いかけるように教室を出ていった。
***
「クロ、まさか……」
「そう心配するなって、ただの見学をさせるだけだ」
「そうかな…」
クロの言うことを信じたいが、長年一緒に居たせいか言葉を交わさずとも何を考えているかくらいは分かる。何か悪いことを考えている表情だ。
新しいおもちゃを手に入れたかのような顔。
「変なことにならないといいけど…」
クロが行った後、おれは自分の席に戻った。昼休みも終わりに近づいていたためか、利根川さんも席についていた。
おれが席に着いたと同時に彼女は笑顔で言った。
「見学のこと言ってくれてありがとう。それと…部活頑張ってね」
「……うん」
それだけの些細な言葉を言われたくらいでおれの心が温かくなった。
20140712
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