初日
いつもよりも騒がしい教室。今日は転校生が来るらしく、男子も女子も浮かれていた。そして不自然に置かれた隣の机、昨日まではこんな真新しい机はなかった。
ああ、ここにその転校生が来るんだなとおれは何気なく机を見た。おれの席は窓際の一番後ろで隣には誰もいない。誰にも邪魔されず一人になれる。
しかし、今日からは隣に誰かがいる。席同士は少しだけ離れているが、転校生ともあれば教科書などを見せなければいけなくなるだろう。極力人とは関わりたくない。
「おー、お前ら席に着けー転校生を紹介するぞー」
元気よく担任の先生が教室に入って来た。先生の後に着いてきたのは小さな女の子だった。
教室内はざわざわと五月蠅くなり、先生がまた注意をした。彼女は顔を上げ、簡単に自己紹介をした。どうやら五月蠅い人ではなさそうだ。
「利根川は孤爪の隣の席な」
そう言って先生はおれの席を指した。利根川さんは、はいと返事をして席に着いた。彼女はおれに顔を向けよろしくねと頭を下げた。
「……どうも」
彼女はそれ以上何も聞かなかった。最初から冷たくすればおれには頼らない。転校生と言うのは、必ず休み時間になると机の周りを囲まれる。彼女は遠い所から転校してきたということもあり、予想通り机の周りを女子で囲まれた。
「ねえ、利根川さんって〜」
「その場所って○○が人気だよねー憧れるー」
女子達が競うように話しかける。利根川さんはそれに対して言葉を選びながらゆっくり話していた。その姿はまるで何かを隠しているような気がした。
予鈴が鳴り、女子達は席に戻った。彼女はおれの方を向き話かけてきた。
「名前、聞いてもいい?」
「……孤爪研磨」
おれは彼女の方を見ることはない。だから、彼女がどんな顔をしているか分からない。
「教科書見せてもらってもいいかな?」
「別に、いいけど」
やはり使っている教科書が違ったのか、彼女はおれの席と自分の席をぴったりとくっつけた。
「孤爪君、このゲーム好きな…んだね」
彼女が指をさしたのは、おれの机に乗っていたゲーム。ちょうど新しく出たばかりのRPGをプレイしていた。
おれはサッとゲームを机の中にしまった。
「あっ、やっぱりすれ違ってる。これ孤爪君だよね?」
ニコニコしながら彼女は自分の鞄から出したゲーム機をおれに見せた。おれは渋々彼女の方を向き、その画面を見た。
「うん…そうだけど」
「最初のボスが倒せなくて困ってるんだけどさ……」
ここなんだけどと彼女はおれにゲーム機を渡してきた。ここはおれも少し苦戦したところだった。彼女のこのパーティーレベルでどうして勝てないのかが不思議だった。このレベルなら次のボスでも倒せる。
「凄い!」
すぐにボスは倒せた。彼女は大喜びで画面を見ている。
「…ここをこうすればもっと強くなるよ」
「そうなん? あっ、そ、そうなんだ…ありがとう」
何だろうかこの違和感は
彼女からは笑顔が消え、おれから目をそらした。もしかしたら、彼女は……
「おれは訛っててもいいと思うけど」
「えっ……?」
彼女は目を丸くし、おれを見た。
「本当に? 大丈夫かな…」
「平気だと思うよ」
彼女は何か吹っ切れた様子でまた笑顔になった。その笑顔がまぶしくておれは顔を背けた。
けれど、彼女はいつまでもおれのこと見ている。
「改めまして、孤爪君これからよろしくね」
「……研磨でいい」
その言葉を名前で呼んでほしいと感じ取ってくれたのか、彼女は大きく頷いた。
これが彼女との出会いだった。
20140629
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