合宿編1
あのぬくもりがずっと残っていた。お風呂に入っている時も、眠る時も、研磨君のことばかり考えていた。
考えては、胸が騒がしく鳴る。
あの後、部活中もまともに研磨君のこと見られなくて、犬岡君には体調でも悪いのかと心配された。
きっと、研磨君の練習している姿を見てしまったら彼から目線を離せられなくなる。
悶々とした気持ちであの日を迎えた。
***
「じゃ、俺たちは烏野迎えに行ってくるが……藍はどうする?来るか?」
記録を書いている私に黒尾先輩がそう言った。隣には海先輩もいた。
「私は……ここで待ってますね」
分かったと海先輩は言って、二人は烏野高校のメンバーを迎えにいった。記録を書き終わったら、他のマネージャーさんと一緒にドリンクを作りにいく。結構な人数のマネージャーがいるものの、仕事はいつにも増してハードだ。でも、こうやって忙しく動きまわっている時は他のことを考えなくていい。チラリと研磨君が練習しているところを見る。
「あっ……」
目が合った。
それだけで、時間が止まったような気がする。研磨君は私を見てフッと笑ったように見えた。私は何だか恥ずかしくなって俯いてしまった。胸のドキドキが治まらなくて、私は深呼吸をした。
「藍ちゃんどうしたの?」
「気分悪い? 大丈夫?」
「あっ、ご、ごめんなさい。少しボーっとしちゃいました」
この間仲良くなった梟谷のマネージャーさんが私を気遣ってくれた。私は笑ってごまかした。気持ちを切り替え、ドリンクを作る。
掛け声と、キュッという足音が体育館の中に響く。外は熱いが、体育館の中の方が数倍熱い。
「そう言えば、藍ちゃんは烏野高校のことって知ってる?」
「あっ、そのことならこの間黒尾先輩から聞きました!」
それに…と私は烏野に知り合いが何人かいることと、半年くらい烏野高校に居たことを話した。
「そっか、じゃあ久しぶりの再会ってことだね」
「はい、そうなんです」
どんな風に成長しているか楽しみでもあるけれど、ちゃんと話しかけられるだろうか。私のことを忘れていたら、どうしようとマイナスなことばかりが頭に浮かぶ。
「あっ、来たみたい」
一人が体育館の入り口を指差した。
入って来たのは、主将だと思われる人とそれに続いてゾロゾロ……でもなかったが、数人入ってきた。みんな、緊張の面持ちでコートを見つめていた。
懐かしい顔が並んだ。でも、話しかけるのは練習が終わってからにしよう。
私は仮でも音駒のマネージャーなのだから。
そして試合は始まり烏野は何度もペナルティのフライングをしていた。
でも、遅れてやってきた一年生の登場で一気に流れが変わった。
「藍先輩、ここ」
「ありがとう」
一年生に間違いを指摘され、ノートを書き直す。今は、烏野の一年生のことばかり気にかけるわけにはいかない。今はリエーフ君がどこまで進化したのかまとめなければ。と、言ってもバレーは初心者なので、初心者目線でしか書けないけれど……それでもいいと監督は言ってくれた。時にはそういった意見も参考になると言うことだった。
しばらくして試合終了を告げた。
20141203
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