ぬくもり


「今度烏野高校がこっちに来る」
黒尾先輩が皆に向かって言った。言い放った瞬間周りは騒がしくなった。

「烏野高校ってあの宮城の高校ですよね?」
「藍は知らないだろうけど」と先輩は音駒と烏野との関係をざっくりと話してくれた。

「何か嬉しそうだな」
その言葉にぎくりとした。知らず知らずに表情に出ていたのだろうか。

「もしかして・・・・・・知り合いでもいるの?」
研磨君はどこか心配そうな、不安そうな顔で聞いてきた。何を心配しているのか分からないけれど、知り合いがいると答えた。

「ふーん、じゃそいつとまた会えるといいな」
ありがとうございますと私は答えた。

烏野高校での思い出は多く、一番充実していたと思う。もちろん音駒高校も凄く充実していて、青春してるなーとしみじみしてしまう。
西谷君、田中君、縁下君は元気かなーと関わり合いがあった人を思い浮かべる。
縁下君以外は同じクラスと言うわけでもなく、いろいろお世話になったりして仲良くなった。

特に西谷君はいつもバレーに燃えていて元気いっぱいで、一緒にいると楽しかった。今も元気なんだろうか。

半年程しか烏野で生活出来なかったけれど、濃い毎日だった。

「藍先輩っ! ボール出しお願いします!」
犬岡君が走りながら私の所に来た。
その姿はまるで犬のようでかわいかった。

犬岡君はボールの入ったカゴを私に渡した。それじゃあ、行こうかというところで研磨君に話しかけられた。

「bk_name_2#さん・・・・・・テーピングしてもらってもいい?」

「うん、いいよ! 犬岡君後ででもいいかな?」
そう言うとはいっ! と元気よく返事をした。

体育館の外に出た私たちは水道前で歩みを止めた。

「アイシングなら私が氷とか水持ってくるけど・・・研磨君?」
さっきまで練習していて、いつもの研磨君だなと感じた。プレーだけは、いつもの彼だ。
でも、ふとした瞬間見せる表情はどこか悩みがあるような顔だった。

「研磨君悩みがあるなら聞くよ?」
梟谷との練習試合の時から様子がおかしかった。体調が悪いわけでもなさそうだけど、心配だった。

「そうじゃないけど・・・」
研磨君は私と顔を合わせない。

「じゃあ・・・私氷持ってく・・・っ!」
「利根川さん」
研磨君は私の手を取り、近くに寄せた。彼の瞳は私をジッと見ていた。

「研磨、君・・・・・・?」
「もしかして、烏野高校に彼氏でもいたのかなって思って」

「私に彼氏・・・・・・?」
研磨君はコクリと頷いた。その真剣な眼差しに胸が騒がしくなる。
どうして研磨君はそんなことを聞いてきたのだろうか。

「い、いないけど・・・」
握られた手が弱まっていくのが分かる。

「ごめん」
その時、研磨君の名前を呼ぶ声が聞こえた、あの声は黒尾先輩だ。その声に反応した私達はびくりと肩を震わせた。

「研磨君、早く行かないと」
「そう……だね」
研磨君は名残惜しそうに私の手を離した。彼のぬくもりは消え、彼の姿も体育館の中へと消えて行った。寂しいと言ってしまえばそうだろう。

「顔真っ赤……」
鏡に映る自分の顔はりんごのように赤く染まっていた。


20141126



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