迷子
渡された地図通りに来たはずだった。
けれど、どこを見渡しても目的地が見つからなかった。こういうことになるなら研磨君と一緒に来ればよかったと後悔し始めた。マネージャーは選手よりも早く到着していなければならないものだと、どこかのサイトに書いてあった。
でも、研磨朝早いのは苦手そうだなと彼の顔を思い浮かべた。逆に夜久先輩とか海先輩は早起き得意そう……後、猛虎君も。
あっ、勝手に想像して楽しんでる場合じゃなかった。
今日は梟谷学園と練習試合の日。私は梟谷学園のマネージャーさんからいろいろとノウハウを学ぶ絶好のチャンスの日。昨日は遠足の前の日のようにワクワクしてあまり眠れなかった。
「困ったな……」
電車から降りて地図通り進んだはずだった。目の前には住宅街が広がっていた。
「どうしよう」
取りあえず、地図通り進んでみよう。方向があっていればの話しだけれど。
「やっぱり都会だなー」
密集した住宅を見ながら生まれ育った場所を思い出した。
もう何年も帰っていない。最後に帰ったのはいつだったかすら思い出せない。
「どうかしました?」
「あっ……あのっ」
住宅街前で突っ立っていると、後から話しかけられた。振り向くと、背の大きい男性が立っていた。身長は高く、犬岡君くらいの大きさだろう。
男性はこれから学校へいくのだろうか、ジャージを着ていた。うん、このジャージってもしかして……
「もしかして梟谷学園の方ですか?」
「……そうですけど」
男性は私を不審な目で見る。それはそうだろう、いきなり学校名を言っ
しまったのだから。
「あの、私音駒高校バレー部マネージャーの利根川と言います」
「ああ……木兎さんが言ってた音駒のマネージャーか」
そう言って彼は私を見下ろした。
「一緒に行きましょうか」
「い、いいんですか!?」
彼はコクリと頷き、歩き始めた。私はその後をついていく。彼は私が後ろにちゃんといるか時折、後ろを向く。
優しい人なんだなーと思いつつ、私は彼の隣にいった。
「あの、お礼をしたいので名前を教えてください」
「赤葦、京治。お礼とかは特にいいです」
彼とはポツポツ他愛もない話をした。
バレー部ということと、一番驚いたことは赤葦さんとは同じ学年だと言うことだ。
少し歩くと、目の前には学校らしき校舎が見えた。校門前には見覚えのある人が立っていた。
「もう来てるのか」
赤葦さんの目線の先には、研磨君が居た。研磨君は私をみるなりやっていたゲーム機から目を離した。
「研磨君! おはよう、早いんだね」
「クロが早めに行こうって……クロならもう校舎内にいると思うよ」
何だか、研磨君の様子が少しおかしい。いつもよりそっけない印象を受けた。朝早いからだということにして、私は赤葦さんにお礼を言い彼と一緒に三人で体育館へと向かった。
20140909
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