名前を呼んで
マネージャーと言う仕事にも段々慣れてきたある日のことだった。
「藍せんぱーい!!」
「っわ!」
皆が休憩時に飲むドリンクを渡しに行こうとした時、後ろから抱きつかれた。その拍子にドリンクがこぼれそうになったが、近くにいた研磨君が助けてくれたのでこぼさずにすんだ。
「もう、灰羽君! 危ないでしょう!」
「藍先輩が名前で呼んでくれるまで止めません」
灰羽君は私の肩に頭を乗っける。それが彼のお気に入りだと言う。私は今すぐやめてほしい。何度言っても彼は止めない。彼がこの行動を起こす度に夜久先輩に厳しいペナルティーを罰せられる。
それでも彼は止めようとしない。
そのペナルティーもどこか楽しんでいるように見える。
「リエーフ、さすがに鬱陶しいんだけど」
「そ、そうだよ、私も汗かいてるし、それにその体勢きつくない?」
研磨君の言葉に賛同しつつ、彼を渡しから離そうともがく。けれどびくともしなかった。
「きついなんて思ったことないッスよ」
「いや、でもほら! 身長的にさ辛いでしょ?」
灰羽君はいいかもしれない。でも私は時間が経つ度に段々体重がかかって重くなっていく。倒れそうだが、休憩が終わるまで持ちそうだ。
他の先輩方は猫又監督と何やら話をしているし、犬岡君に至っては凄く羨ましそうな目で私を見る。可愛い、可愛いけど助けて・・・
「リエーフ! マネージャーが困ってるだろう」
そこへ現れたのは隣のクラスの山本君だった。
「や、山本君・・・助け・・・」
「ま、マネージャー・・・・・・」
助けを求めようとしたが、山本君はマネージャーと呼ぶと顔を赤らめて固まってしまった。
「虎、利根川さん助けるんじゃなかった?」
「ハッ! そうだった。ありがとよ研磨っ!」
山本君はリエーフの後ろに周り離そうとする。けれど、私としてはもう・・・
「もう・・・ムリ・・・」
「利根川さん、大丈夫?」
倒れそうになったところを研磨君が助けてくれた。さっきまでドリンクを飲みながらこちらを観察していたのに。
さすがセッター・・・
「研磨君ありがとう・・・助かったよ」
「利根川さんさ、”リエーフ”って言ってみて」
研磨君は私をくるりと回転させ、灰羽君と山本君の方に向かせた。
そしてせーのと研磨君が合図をくれたので、私は彼の言った通りの言葉を発した。
そしたら灰羽君は笑顔で近寄ってきた。そして山本君も下の名前で呼んでもらいたいらしく(研磨君がそっと教えてくれた)、小さな声で猛虎君と言った。
そして、休憩時間が終わり集合がかかり練習が始まった。
「やけに張り切ってるじゃねーか。なんかあったのか?」
「・・・ちょっとね。クロ、今日はあの2人だけ練習キツめでいいと思う」
ね、と研磨君は私に同意を求めた。私は曖昧に笑いつつ黒尾先輩の意見を待つ。黒尾先輩はなるほどなと呟き研磨君の言うとおり2人だけ練習メニューがきつくなった。
2人は厳しい練習を難なくこなしていった。
2814820
戻る