不器用な彼
調理実習室にある机にはカレーの材料が並べられていて、教室には6つのグループができていた。
私のグループには牛島君がいた。彼の姿は緑のエプロン、頭にはバンダナをしている。なぜかその姿が一番このクラスで浮いていて、いつもよりも威圧感が増していた。
彼は悪い人ではないのだけれど、目つき
や体格の良さが皆の目を惹く。
「その格好似合ってるね」
「・・・・・・それ、本気で言ってるのか」
ギロリと睨まれたが、私は動じない。
「牛島君将来良いお父さんになりそうだなって思って」
「夢が丘、馬鹿なこと言ってないでこれ切るの手伝え」
はいはいと気だるげに返事をし、私は彼の近くへと行く。
馬鹿なこと言うなと言いつつ、牛島君・・・・・・若利君は少し照れていた。いつも素直ならいいのになと思ってしまう。
「人参ね任せて!」
若利君は頷き、彼はジャガイモの皮を剥き始めた。けれど・・・・・・
「か、代わろっか?」
「いや、大丈夫だ」
心配するなと彼は言う。他のメンバーも心なしか心配そうだ。
別に見栄なんて張らなくてもいいのにと、その様子を見守る。
「っ!」
「若利君!?」
小さな声が聞こえ、私は彼の指を見た。指からは血が出ていた。
「とりあえず洗って! それから、保健室!」
「ゆめみ、そこまでしなくても大丈夫だ」
若利君は切った指を水で洗い、私が出した絆創膏を貼った。
「そ、そっか・・・・・・」
良かったと安堵する。そして、ジャガイモを見た。
「格好悪いところを見せてしまったな」
「でも、私、そんな若利君が好きだけど」
「ゆめみ」
すべてが完璧だと、息が詰まりそうだ。それに、若利君のその不器用な所が大好きだ。
「牛島指大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ」
肉などを炒めていたメンバーは若利君に話しかける。
彼は何ともないと、どこか嬉しそうに言っていた。
20141117
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