泣き虫シンドローム
彼女は昔から泣き虫で、何かにつけてすぐに泣いていた。幼稚園では俺が読み聞かせていた絵本で泣き、小学校では調理実習でカレーを作っていたところ、俺が指を怪我して心配そうに涙を流しながら絆創膏を貼っていた。
しかし、中学では話すこともあまりなくなり、ぽっかりと距離があいた。
俺はゆめみに話したいことがたくさんあったが、彼女は周りの視線を気にしてか曖昧な返事をするくらいで会話という会話は成り立っていなかった。
中学の三年間は数えるほどしか話すことはなかったし、もちろんクラスも離れていた。それに、部活に精を出していたため、ゆめみの姿を見ることも少なかった。
こんなにも家は近いのに、心の距離は遠かった。
高校は別々だと思った。受験の時、ゆめみの姿を見かけ俺の心が躍った。久しぶりに見たゆめみの姿はあまり変わっておらずホッとした。
しかし、雰囲気は大人びておりもう幼いころの泣き虫だったゆめみの面影はどこにもなかった。
「こうやって二人で遊ぶなんていつぶりだったっけ?」
「小学生ぶりじゃないか」
そっかと笑うゆめみの横顔をそっと盗み見る。上映時間が近づき辺りは暗くなる。
「まさか若利君が映画に誘ってくれるなんて思わなかった」
「嫌、だったか?」
ううんとゆめみは首を振った。彼女の声は映画の音でかき消され何を言ったのか分からずモヤモヤとした気持ちでスクリーンをジッと見ていた。
映し出されるのは映画の告知やCM。新作の映画は永遠に別れてしまった恋人たちの話らしい。俺はチラリとゆめみの方を見た。
彼女は案の定、瞳から涙を流していた。
その泣き顔を見た時、そこは変わってないんだと安心した。だが、その顔に少し欲情した。昔はゆめみが泣いたら涙をふくのが俺の役目だった。その役目は他の男にはやらせない。
「ゆめみ、好きだ」
彼女の耳元に近づき、そう言った。俺はゆめみの手に自分の手を重ねた。
「若利君……本当?」
ゆめみは驚いた様子で俺を見た。その瞳は潤んでいて映画のせいなのか、それとも……
彼女はギュッと俺の手を握った。俺はその手を握り返した。
「私も、ずっと昔から好きでした」
耳元で囁かれ、俺は本編の内容がまったく頭に入ってこなかった。
きっと彼女もそうだろう。
映画館を出た後、俺たちは無言で家に帰る。
行きと違うのは、手を繋いでいること。
そして――
「また泣いてるのか」
「っ、だって嬉しくて……」
ゆめみは涙を流していた。俺は手でその涙をぬぐった。
20141010
[お題:
輝く空に向日葵の愛を]
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