生徒会長と及川


青葉城西の今の生徒会長は女性が務めている。
その名前は夢が丘ゆめみ。

頭も良く、美人な上に眼鏡という、全校生徒の憧れの的でもあった。
しかし、それは夢が丘と関わらないから言えることで、同じクラスの人間にはあまりよくは思われてはいなかった。
とにかく、夢が丘は気が強く責任感も人一倍強かった。

「それじゃ会長、これを資料室に運んでおいてくれ」
「分かりました」

夢が丘は先生に呼ばれ大量の資料を渡された。彼女は嫌な顔をせず休み時間資料室に向かった。資料は重いらしく、少しフラフラしていた。

資料室は別館にあり、そこは薄暗く人気は少ない。
夢が丘は落とさないように慎重に運び、別館へ続く廊下を歩く。その後ろから足音を立てないようにしながら走ってくるのは、彼女が苦手としている男だった。

「ゆめみちゃん」
彼女はヒィッと悲鳴を上げた。男の正体は及川徹だった。

「ゆめみちゃん酷いなーそうやって俺のこと無視してさー俺たちつき合ってるのに冷たいよね」
「まったく、何回言えば分かるの。私と及川君はただのクラスメイトでしょう?」
それ以下でもそれ以上でもないでしょと彼女は言った。

「いいよ、恥ずかしがらなくても。俺はゆめみちゃんが俺のことどれだけ好きか分かってるし」
「だから・・・・・・えっ」

ため息をつきながら反論しようとしたが、及川はゆめみが持つ資料のほとんどを奪った。
あまりにも一瞬のことだったので、ゆめみは目を丸くしていた。

「これくらい持たせてよゆめみちゃん」
「あ、ありがとう……」
ニコニコと笑顔で彼女に寄り添う及川と微妙な顔をしたゆめみだった。

「それよりも、及川君はどうして私に付きまとうの?」
「決まってるじゃーん、ゆめみちゃんのことが好きだから」
はあ、とゆめみは重いため息をついた。当の及川はそんなゆめみを見ながら笑顔を浮かべていた。

「だってさー普段はツンツンしてて孤高のゆめみちゃんだけど、実はオタクってところが好きなんだよねー。それに、すぐ赤くなるし」
「なっ、な、なんでそれを……」

ゆめみは立ち止まり、及川も歩くのを止めた。

「だって俺、隣町の本屋でアニメ雑誌買ってるところ見ちゃった」
語尾に星マークが飛んでいそうな言い方だった。
ゆめみは無言で俯く。

「ゆめみちゃんのそういうギャップ萌えな所が好きなんだよね、俺」
早く行こうと及川は先に歩みを進める。彼女は及川に追いつくように走った。及川は早足で資料室まで歩く。

「はい、とーちゃーく」
「及川君、早すぎ……っ」
走ってきたのかゆめみは息を荒げていた。
資料室は埃臭く、カーテンが閉まっていて太陽光は入ってこない。電気をつけないと暗かった。

「ね、ゆめみちゃん俺と付き合ってよ」
「っ!?」

ドンとゆめみは及川によって壁に追いやられた。

「冗談はやめて」
「俺は諦めないよ、ゆめみちゃんが俺のこと好きって言うまで」
及川の声はどこか脅迫めいていて、冷や汗が流れた。

「じゃ、ゆめみちゃんまた後でね」
ゆめみは及川が去ってからもその場から動けないでいた。

「な、な、何だったの……」
さっきの言葉は本気なのか、はたまたいつもの爽やかな嘘なのか。ゆめみには判断できずにいた。


「ばれてるなんて、ね……」
彼の周りにはいつも女子が集まっていて、噂では彼女はとっかえひっかえだという噂だった。けれど、女子達が彼に惚れるのも分からなくなかった。
バレーをしている時の彼の顔は真剣で正直だった。
モテモテな彼がどうして私なんかに纏わりつくのかは不明で、きっと彼にとって私みたいな人間は珍しいからだろうと思っていた。
けれど、ここまでだとは思わなかった。

「こういうのが毎日続くのかと思うと憂鬱……」
今日で何回目かのため息をつき、資料室を出た。

外では女子達の黄色い歓声が聞こえる。

ゆめみは耳を押さえて教室へと戻った。


その様子を面白そうに見ていたのは及川だった。

「ゆめみちゃんが折れるまで諦めないから」
そう口が動いたような気がした。


20140901



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