雨女と晴れ男


最近雨の日が多い気がする。テレビの週間天気予報を見ながらそう呟く。晴れマークがついていたのにも関わらず、昨日は下校時に雨が降って来た。朝は晴れているため傘はいらないと判断していつも持っていかなくてずぶ濡れで家まで帰る。

「おはようゆめみ」
「おはよーえみ!」

そして今日も私は傘を持たず、学校に行った。朝の時点では降水確率0%だった。
これなら絶対にふらないだろう。

さすがに全速力で毎日帰るのは疲れる。それに、私は文化部だし体力があまりない。一昨日は筋肉痛で悩まされた。

放課後になり、そっと雨が降っているかを確認した。

「また雨……」
窓から外を見ると小雨が降っていた。これくらいの雨ならば走らなくても大丈夫そうだと思いえみと別れ玄関へ向かった。
そして靴に履き替え外に出た。

「えっ……?」
外に出て言葉を失った。殴るような雨という表現が一番似合うような雨だった。

「どうしよう……」
困った。傘は持ってきていない。このまま走って帰っても昨日以上に濡れてしまう。それに、この雨では鞄に入った教科書やノートまでも濡れてしまって使い物にならないものになってしまう。
母に連絡しようとも思ったが、あいにく携帯は修理に出していて持っていない。
えみは恋人とデートらしいので、二人の邪魔はしたくはない。

「またずぶ濡れで帰るおつもりですか」
「古牧君……部活じゃないの?」

私の隣に立ったのは同じクラスの古牧君だった。確か古牧君はバレーボール部だったはず。あまり関わったことはないので話しかけられてびっくりした。

「部活はお休みです。来週からテストですから」
「あっ、そっか」

古牧君に言われなかったら忘れていた。古牧君は曇った表情を浮かべた。
呆れられただろうか。それにしても、”また”ってどういう意味なのだろうか。

「もしかして、忘れていたわけじゃないですよね?」
「うっ……」

ハアと重いため息をつかれた。古牧君は傘を開き、一歩足を進めた。

「ほら、帰りますよ」
「帰るって……?どういうい……っ!!」

古牧君は早くと私の腕を掴み、引っ張った。私は、古牧君の傘にすっぽり入った。

「こういう意味です」
「い、いいの?」

傍から見たら恋人同士に見えるだろう。

「いつもずぶ濡れで帰るあなたを見ていました」
「古牧君?」

彼は歩みを進め、私の歩幅に合わせてくれているようだった。優しいんだなと感じた。

「テストも近いことですし、勉強会でもしませんか? 俺に言われなければ忘れていたみたいですし、いいですよね?」
「本当に? でも、私……」

古牧君の提案に素直に喜んだ。けれど、よく考えるとあまり古牧君とは関わりがないし、私ではなく他の人と勉強会をしたほうがいいのではないだろうか?

「夢が丘さんがいいんです。俺はずっと夢が丘さんのこと……」

「こ、古牧君?」
大事な所で雨が強くふり、雨音しか聞こえなくなる。なにか、とても大事なことを言っていた気がする。私の胸がドキドキとうるさく鳴る。
古牧君の方をちらりと見ると、彼の頬は赤く染まっていた。

「……察してください」
「う、うん……」

さっきのは、告白だよね……どうしたらいいだろう。返事したほうがいいよね。

「好きです」
古牧君は立ち止まり、私の顔を真正面に見つめ言った。その顔は真剣で、ドキッとした。

「古牧君……」
私は頷いた。雨はだんだんと小降りになった。

「晴れましたね」
私は頷き、古牧君は傘を閉じた。

「俺は晴れ男ですから」
「それって私が雨女みたい……」

違うんですか? と古牧君はクスリと笑った。笑った顔にまたときめいた。確かに、古牧君の言う通りなのかもしれない。


雨女を救ったのは晴れ男の彼だった。



20140826



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