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待ち合わせの30分前になり、家を出た。彼を待たせるわけにはいかないし、きっと彼は部活終わりで疲れているだろうから。

「……よしっ」

家を出る前に鏡を確認した。化粧は薄めだが、普段あまり塗らないピンクのグロスをつけた。変じゃないだろうか? 恋に効くグロスだとパッケージには書いてあった。
洋服はリボンのついた洋服でひざ丈のスカート。可愛い感じの洋服を着ていざ、外へ。

「やっぱり早すぎたよね……」
待ち合わせの場所に着き、周りを見渡した。近くの公園からは子ども達の楽しげな声が聞こえてくる。

「随分早かったな」
「うわっ!!」

後から声が聞こえ、驚きつつ振り向くとそこには牛島君が立っていた。

「あっ、う、牛島君を待たせちゃ悪いかなって思って……」

緊張して上手く言葉が出てこない。だって、今日の牛島君はいつものジャージ姿でなく、雑誌を切り取ったかのようなかっこいい格好だった。
そんな彼の隣に私がいるなんて夢のようだ。

「誘ったのは俺だ。だから夢野さんを待たせるわけにはいかない。……どうした」
彼は私の目線に気づいたのか、私を直視した。
素直に言ってしまおうか、でも言ったら彼が何て思うだろうか。

「……かっこいいなって思って」
「……俺がか?」

私はゆっくり頷いた。彼は私から顔を背けた。ああ、やっぱり言わなきゃ良かったかな。変に思われたかもしれない。だって私は彼の恋人でも友人でもないから。
もし、私が牛島君の立場なら……嬉しい、かな。あれ?

「俺は今日夢野さんを直視できないかもしれん」
「えっ?」

牛島君の顔は赤く染まっており、私を見てくれなかった。彼は私の手をとり、優しく握ってくれた。そして彼は歩きだし、私は黙って着いていく。

どこへ向かうのだろうか。そもそも今日は渡す物があると言われ待ち合わせたのではないだろうか。歩くこと数分、近くの駅に着いた。休日の午後ともあり、人々でごった返していた。

こうして歩いているとまるでデートみたいだ。

「夢野さんならどの映画が見るんだ」
「え、うーん、そうだな……」

連れてこられたのは駅前にある映画館だった。まだ手は繋いでいる。
牛島君は恋愛物とか見ないだろうし、ファンタジーも見なそうだよね……

「これはどうかな?」

私が出した答えは動物物だった。ポスターには癒されたい方におすすめと書かれていた。

「分かった、これにしよう」

さっそく、彼はチケット売り場に行きチケットを二枚買ってきた。私は自分の分のお金を払おうと財布を出そうと思ったが、彼に止められた。

「じゃあ、今度来た時は私が払うね」
「それで夢野さんが納得してくれるならいいだろう」

ん? 今度? あれ、私今凄いこと言った気がする。それに彼はその言葉に納得してしまった。






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