休日だからこそ、絶好の練習日よりだ。今日は午前練しかなかったからか、物足りない。だから、部活が終わり、昼食を食べた後ランニングを兼ねてスポーツショップに足を運ぼうと考え実行した。
店に入り、店内を見渡す。目に止まったのは見覚えのある彼女の姿だった。彼女はスポーツタオルが置いてある棚をキョロキョロ見ていた。
一つ取り出してはこれじゃないと棚に戻し、それを何度も繰り返していた。
話しかける気はなかったが、口が最初に出てしまった。
「こんなところで何をしている」
「え?」
間抜けな返事が返ってきた。彼女は俺に話しかけられ驚いていた。
だから、次にこんなことを聞かれるとは思いもしなかった。
「あの、えっと……牛島さんならどのタオルが好みですか!!」
”牛島さん”、そう呼ばれドキリとした。しかも彼女の頬は赤く染まっており、小動物のような可愛さがあった。
「そうだな……」
彼女と目を合わせることができず、適当にタオルを見る。
彼女の方をチラリと見る。助けた時は何とも思わなかったが、こうしてみると背が小さく誰かが守ってやらなくてはいけないと言う気持ちになる。
それが自分ならいいのだがと思った、けれどその気持ちは心の隅にしまっておこう。
そもそも自分は彼女の名前を知らないのだから。
俺は何枚かタオルを取り彼女に見せる、だが彼女からの反応はなかった。
「ーーおい、大丈夫か」
「はいっ!」
肩を叩こうと考えたが、嫌がるかもしれないと思い、やめた。何回か彼女を呼ぶと彼女は我に返り俺を見上げた。
どうしてさっきから顔が赤いのだろうか。
風邪でもひいているのだろうか。それとも・・・ただ単に男と喋るのに慣れていないからか。
「熱でもあるんじゃないか?」
「だ、大丈夫です。あっ、これなんてどうですか?」
俺は彼女の顔を見つめた。彼女は俺から逃げるように離れ、端の棚にあったタオルを俺に見せた。
そのタオルにワンポイントとして白い羽がついていた。
彼女が一生懸命考えているのはもしかして恋人へのプレゼントなのかもしれない。
「そうだな、俺ならそれを選ぶ。しかし、これは誰かにプレゼント・・・・・・をするために選んでいるんだろう?」
「それは・・・・・・そうなんですが。私にはイマイチ分からなくて」
同性にプレゼントをするなら自分でどんなものか分かるだろうし、俺に聞くくらいだ相手は男・・・恋人だろう。
恋人、彼女の恋人はどんな人間だろうか。きっと自分みたくバレー一筋の人間ではないのだろう。
「そうか・・・・・・なら、渡す相手に直接聞いた方がいいんじゃないか?」
俺はそう言って店を出た。後ろから彼女の声が聞こえた。
「あっ、牛島さんっ!」
その声は悲鳴にも似ていた。
あの気持ちを無くすため走った。彼女のことを何もかも忘れたかった。
けれど、出来なかった。
そして、俺は偶然見てしまったんだ。彼女が楽しそうに笑いながら男と話しているのを。
胸が痛くなって、家に帰った。寝ようと思ってもあの光景が睡眠を邪魔をする。どうしてこんなにも胸が痛いのだろうか。常備薬を飲んでも治らない。
何なんだ、この感情。どす黒い感情が俺を支配し始めた。
20140605