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日曜日はとても暑く、こんな日に体育館で練習は辛いだろうなとみんなのことを思いつつ、自宅から少し離れたスポーツショップへと足を運んだ。
中に入ると、冷房がついていた。気持ちいいとエアコンからの風を受け私は生き返った。ちょうど着いたのは13時。本当は朝から来たかったのだが、掃除や布団を干していたらお昼になってしまい、今に至る。

「やっぱりけっこう種類あるなぁ」

ずらりと並ばれたタオル類。いったいどんなものがいいのか見当がつかない。店内は空いていて、冷たい風が私の体に直に当たる。だんだん寒くなってきた。
早く決めちゃって外に出たい。店員さんに聞くか、それとも自分で決めてしまうか……

牛島若利、それが彼の名前だ。彼は全日本ユースのメンバーに選ばれていて、学校はあの強豪白鳥沢だ。雲の上の存在の人物、だからもうお礼のタオルを渡したら会えないだろうし、気軽に話すこともできない。
それでも、大会に着いていけばもしかしたら彼の試合が見れるかもしれないし、運が良ければ挨拶くらいは交わせるかもしれない。でも、私にそんな勇気があるのか疑問だが、おそらく遠くで見ているだけで精一杯だろう。そんなこと自分で分かっていた。

「こんなところで何をしている」
「え?」

いきなりだったので、間抜けな返事を返してしまった。後ろを振り向けば、あこがれの彼がいた。いったいどうして?

「あの、えっと……牛島さんならどのタオルが好みですか!!」

あっ――…大きな声で勢いよく口走ってしまった。うわー恥ずかしすぎる……しかも、名前を呼んでしまった、穴があったら入りたい。

「そうだな……」

彼は私の行動には反応せず、ただ淡々とタオルを見ていく。
ああ、胸がドキドキする。見上げるだけで顔がよく見える。そして距離が近い。助けてもらった日は体に触ってしまったが、とてもたくましかった。

思い出すだけで、顔が熱くなり鼓動も早まる。

「ーーおい、大丈夫か」

「はいっ!」

牛島さんは私に何度も話しかけてくれたみたいだが、私は上の空で1人あの日を思い出していた。
 
「熱でもあるんじゃないか?」
彼はその後に私の顔が赤いことに気づき本気で心配し始めた。

「だ、大丈夫です。あっ、これなんてどうですか?」
私は逃げるように彼の側から離れ、一番端にあった棚にあった羽がワンポイトでついている真っ白いタオルを彼に見せた。

「そうだな、俺ならそれを選ぶ。しかし、これは誰かにプレゼント・・・・・・をするために選んでいるんだろう?」

「それは・・・・・・そうなんですが。私にはイマイチ分からなくて」

彼はさっきよりもどこか悲しげな表情を浮かべた。気のせい、だろうか?

「そうか・・・・・・なら、渡す相手に直接聞いた方がいいんじゃないか?」

「あっ、牛島さんっ!」

彼はそう言い残してお店を出て行ってしまった。どうしたのだろう、いきなり出て行くなんて。急に用事でも思い出したのだろうか?
しかし、彼は何をしにこの店に来たのだろう。手には何も持っておらず、買い物と言うよりもロードワーク中と言った方が正しい気がする。

もしかして私を見つけてここに? いやいや、そんなわけないよね。自惚れるのは止めよう、自分が辛くなるだけだ。

「すみません、これください」

私は彼が好みだと言ってくれたタオルを買い、その足でコンビニに寄りアイスを人数分買い烏野高校体育館へと向かった。


20140602


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