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「どうしよう――」

はあーともう何度目か分からないため息を漏らした。それを心配そうに見ているのはとても仲が良い後輩の谷地仁花ちゃんだ。

今日は仁花ちゃんのお母さんの帰りが遅くなるとのことなので晩御飯を一緒に食べることになった。
仁花ちゃんの作るご飯は美味しい。高校生になって一人暮らしを始めた私よりも何倍も美味しい。

「ななこ先輩どうかしたんですか?」

「ねえ、仁花ちゃんならこの場合どうする?」

私はこの間のことを仁花ちゃんに話し、その人に何かプレゼントをしたいことを伝えた。

「そうですね……」

うーんと仁花ちゃんは一生懸命考えだした。私は一口ハンバーグを口にした。

手作りのお菓子じゃ少し重いし、日持ちがしない。今度いつ会えるのか分からない彼に何をあげればいいのか。

「スポーツタオルとかどうでしょうか?」

「ああっ! なるほど!」

彼はバレーボール部(たぶん)だからタオルとか使えるものがいい。手作りの物しか浮かばなかったのでタオルと言う案はとてもいい。
気に入らなければ誰かにあげて貰ってもかまわないのだから。

「今度の休みの日にタオル買ってくるね」
「じゃっ、私もお供します!」

仁花ちゃんは手を真っすぐ上げた。

「仁花ちゃんは部活があるでしょう?だから私一人で行ってくるね」

確かにと彼女は手を下げた。スポーツショップなら私も翔陽の付き添いなどで何回も行っているから一人でも平気だ。それよりも問題なのは、どんな柄が好みかということだ。

こればっかりは本人に聞くしかない。しかし、それでは意味がない気がするし、本人に聞くすべがない。

「店員さんに聞けば間違いないと思います」
「そうだよね……迷ったら聞いてみるね」

あっ! と仁花ちゃんは何かを思い出し席を立ち自室へと入って行った。そして彼女の手に持っていたのはバレーの雑誌。
それを私に手渡した。

「これ、ななこ先輩の好きな人が載ってるかもしれないと思って」

「す、す、好きな人っ!?」

な、何を言い出すのか彼女は。好きな……好きな人。好きというか、憧れの人だと思うのだけれど。

「好きって言ったらそうかもしれないけど。彼は私の憧れの人なんだ」

私が彼の彼女になるなんてことは考えたことはないし、100パーセントあり得ないことだと思う。だってどう見ても釣り合わない。

「憧れ……ですか。なるほど」

「私これ片づけるね」

この話を取りあえず終わりにしたくて席を立つ。自分の使った食器と空いたお皿をキッチンに持っていった。

食事の片付けも終わり、私はリビングで仁花ちゃんの持ってきた雑誌を開いた。数ページめくるとどこかで見た顔がそこにはあった。

「あれ? この人……牛島若利……?」
「ななこ先輩?」
「え、あ、ううん、何でもない! この雑誌貸してもらってもいい?」

私が慌てて雑誌を閉じたので、仁花ちゃんは不思議そうな顔をしていた。

「はい、私はもう何回も見たので持って行ってください」

「ありがとう仁花ちゃん」

時計は9時を指し、そろそろ自分の家に帰ろうかなと考え始めた時、彼女のお母さんが帰ってきた。いつみても素敵だ……

「そろそろ私家に帰りますね」
「ずっと居ても別にいいのよ?」

私の家は仁花ちゃんの家と同じ階にあり、家族ぐるみの付き合いをしている。

「さすがに私も宿題やらないと」
「そう、なら仕方ないわね」

私は自分の家に帰り、また雑誌を開いた。そこにはやはり彼の顔があった。

「私と同い年なんだ……」

彼は私と同い年で、どんなに背伸びをしても手が届かない人だということが分かった。


20140531


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