一年でレギュラーに入った。それは当然決まっていたことだ。だが、それに甘んじることはできない。一瞬でも気を抜けばすべてを持っていかれてしまう。

だから、あの日も試合前に一人練習をしていた。
緊張になれることはない。一試合、一試合どれも丁寧に完璧にこなす。
どんなに弱い高校でも俺は一切手を抜かない。手を抜いたら最後だ。

あの女は俺を見ても騒ぎ立てることもせず、ただじっと俺を見ていた。他校の偵察かとも思ったが、そうではなかった。兄弟の応援かそれとも及川目当てか……そんなことはどうでもよかった。

見られて俺が弱くなることはない。見られていることで逆に俺は強くなる。いつもそうだったじゃないか……

けれど、あの女の視線だけは他の奴とは違って居心地が良かった。いや、気のせいか。

あの女はいつまで経っててもそこを動かなかった。一瞬見た限りでは背が小さく中学生くらいだった。

試合が終わったと放送が入り、俺は準備のためにそこを出た。本当はその女がいる出口の方が会場までは近かったのだが、顔を合わせることができなかった。

顔を合わせたら、きっと、自分のペースが乱される。



20140522


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