恋人としての初遭遇
彼からメールがあって、今日はあの場所には行けないらしい。理由は特に書いていなかったが、きっと部活で忙しいのだろう。
それに、気づけばつき合い始めてから毎日のように公園で話している。

たまには彼との距離をおくのもいいかもしれない。
それに、今日は少し遠いスーパーで安売りをしている。よし、今日はそこまで足を伸ばしてみよう。そう思い立って、私はバレー部の手伝いの後、目的地に急いだ。夕焼け空の下、私はお店に入った。

店内は夕飯のおかずを買いに来るお客さんでごった返していた。安売りの商品がどこにあるのかを探す。このお店に来たのは数回程度なので、どこに何があるかがイマイチ分からない。

「今日はなにしようかな……」
お魚売り場の端で悩んでいる。タイムセールの商品は鱈だった。よし、じゃあ今日は鱈にしようと思ったら売り切れてしまった。

「鮭かー……」
うん、いいかもしれない。今日、仁花ちゃんは部活で遅くなると言っていたため夕飯は私一人分だけだ。
鮭二匹と野菜、そして飲料を買いレジへと向かう。しかし、レジへと向かう途中意外な人に出会った。

「あの、もしかして若利さんですか?」
「……ななこ」

どうしてここに? と言いたげな顔をしているのは若利さんだった。彼が手に持っているカゴの中には何も入っていなかった。

「私は夕飯の買い物に来たんです」
私はその後に少し遠かったですと付け加えた。

「俺は夕飯の買い出しに来たんだが……何を買えばいいのか見当がつかなくてな。レトルトのカレーにでもしようかと思っていた所だ」
そう言う割に、ここは飲料のコーナーで、少し奥の所にカレーコーナーがある。

「もしかして、スーパーとか初めてですか?」
「……そんなわけないだろう」
若利さんは明らかに動揺していた。こんな彼を見たのは初めてかもしれない。何だか、その姿が可愛く思えた。

「じゃあ、そう言うことにしておきますね」
「そうしてくれると助かる」
拗ねてしまいそうだったので、その話しは終わりにした。きっと、今まで部活漬けの毎日だったのだろう。

彼は何故買い物に来たのか教えてくれた。

「母は大事な集まりがあると言っていたし、父は仕事で今日も遅くなるそうだ。母は俺を気遣ってくれたが、たまには自分で作るのもいいかと思ったんだが……」
チラリと彼は空っぽのカゴを見た。

「なるほど……」
彼は私のカゴの中を覗きこんだ。ここで出会ったのも何かの縁かもしれない。鮭はもう一パック買えば何とかご両親の分も作れる。

「鮭のクリーム煮を作ろうと思っていたんですけど……若利さんがよければ食べて行きますか?」
その言葉にピクリと反応した。

「いいのか?」
私は、はいと頷き会計を済ませてスーパーの外に出た。
空は暗くなっており、夕飯の良い匂いが鼻孔をくすぐった。

20141201
[title:TOY様]


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