番外編1
「で、彼とどこまで行ったの?」

「ど、どことは・・・」

友人との恋愛トークは楽しい。楽しいけど、時々こうやって私に振ってくる時がドキドキしてしまう。

「手を繋ぐとか、キスとか?まさか、まだなんじゃ…」
「な、な、なんてことを!」

佐和子は私の反応を見て、お腹を抱えて笑っている。目には涙を浮かべていた。

「ウブすぎて、可愛いな本当」
「笑いながら言わないでよー」

ごめんごめんと佐和子は軽く手を合わせ私に謝った。ここまではいつものやり取りだった。

「そうだ、これやってもらいなよ」
「これは?」

佐和子が鞄から出したのはファッション雑誌だった。佐和子がページを開き私に見せた。そこには女性が夢見るシチュエーションとタイトルがつけられていた。

「これって……」
私は言葉を失い、そのページを食い入るように見た。その日の帰り、私は部活の手伝いをし、あの公園で彼を待った。
付き合い始めてから私達はあの公園で待ち合わせをし、少し話をしてから家に帰るということをしていた。

***
ブランコに座りながら、私は佐和子から貸してもらった雑誌を開いた。
「……それにしてもこれは」

まじまじとそのページを見てしまう。

「遅くなってすまない」
「ぬ、わぁああっ!」

耳元で声をかけられ私はブランコから飛び上がるように立ちあがった。若利さんは私の行動に目を丸くさせていた。
たまにこうして彼は、私の心臓を早くさせる。たぶん無意識だから、たちがわるい。

「ぜ、全然待ってないです! あっ、ベンチの方に行きましょうか」
「何を読んでたんだ」

うっ……若利さんはジッと私の持っている雑誌に目を向ける。
見せるだけなら、いいよね。別に、やってほしいとかそんなんじゃないし…うん。

「これってどうおもいますか」
「……」
ベンチに移動し、私は友達から貰った雑誌のあのページを開き彼に見せた

「私の友達に貸してもらったんです。た、ただ、それだけなんですよ」
「……ななこはしてほしいのか。この…壁…ドンとやらを」

私はブンブンと首を回した。だが、彼は疑いの眼差しを私に向けてくる。確かに彼に壁ドンされたら息がとまりそうだ。

「わ、私最初壁ドンって聞いてあれかと思いましたよ」
「ああ、隣人から壁をドンってされることだろう」

ふう、何とか話をそらすことができた。ここから普通の話に持っていけたらいいのだけれど。

「ななこはされたことがあるのか」
「私? うーん……隣の人は優しそうな男の人なので、そういうことはないかな」
「……ななこ、送っていく」

彼は勢いよく立ちあがり私の手を優しく引っ張った。まだ、会ってからそんなに経っていないのに、今日はどうしたのだろうか。
確かに、今日は少し遅くなったが、そこまでではないと思うけど。

握られた手は暖かく、大きい。手を繋いでいる瞬間が一番好きかもしれない。まだ恋人になってそんなに日は経っていないから、だからこうしていると幸せな気持ちに浸れる。

……若利さんのこと本当好きだな、私

一言も喋らず歩いていく。それはいつものことだ。でも、今日は何だか雰囲気が違うような気がした。怒っているというか、不機嫌というか、一体今日はどうしたのだろうか。

私の住むマンションにつき、いつもはここでお別れなのだが、今日は手を離してくれない。

「若利さん?」
「今日は家の前まで行ってもいいか?」
「大丈夫だけど、若利さん?」

行くぞと手を引き、エレベーターに乗りこむ。彼の考えていることがいつも以上に分からない。

エレベーターは私の住む階につき、私達は歩きだす。
少し歩くとそこに私の住む家がある。

「あっ、お茶でもどうですか?」
彼は私の手を離した。鍵を開けようと私は彼に背を向け鞄から鍵を取り出し、開けた。

「開きま……っ!!」
ドンと大きな音がして、目の前が大きな影で覆われた。何が起きたのか分からず、私は彼の方を振り向く。

すると、驚くことに目の前には彼の顔があり、まるであの雑誌に乗っていた壁ドンそっくりだった。

「これで…いいんだろう」
「あ・・・ぅ・・・あ・・・・・・はい」

私は彼の顔を直視することが出来なかった。だが、彼は私をジッとみている。まるで、こっちを向けと言わんばかりだ。

「ななこ、俺はお前のことになると自分では分からない感情が渦巻くんだ」
「分からない感情……ぅんんっ!!」

顎を持ち上げられ、無理やり彼と目を合わせられる。そして次の瞬間には私の唇は奪われていた。

「……嫉妬したんだ、ななこの隣人に」
「若利さんが…嫉妬?」

唇は離れたが、二人の距離は近いまま。彼が嫉妬するなんて。むしろ彼の方がかっこいいから私の方がやきもきしてしまうのに。

「!!」

誰かの悲鳴が聞こえた。この声はもしかして……

「仁花ちゃんっ!!」
私は隙間から抜け出し、彼女を呼んだ。だが、仁花ちゃんは顔を赤くさせ頭を振っている。まるで、何も見てないと一生懸命アピールしているようだ。

「……すまなかったな」
「今度は…人気がないところでしてください…」

私は小さく呟いた。すると彼の耳に届いたようで、私の頭の上に手を乗せた。
次の日、仁花ちゃんは私と目を合わすたびに頬を赤く染めていた。


20140707


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