毎日があっという間に過ぎて行く。
彼に会うため、部活が終わった後私はあの公園に向かう。彼にはメールで伝えたいことがあるのであの公園で待っていますと送った。予想していた通り返事は来ない。
公園には私一人。
メールを送ってから一週間ほどが経った今も私はここで待っている。このコースは白鳥沢の練習から外されてしまったのかロードワークをする人はいなかった。それとも、私が来るのが遅いのか。
雨がパラパラと降ってきた。今日の天気は晴れのち曇り、雨のマークは出ていなかったはずだ。この雨は私の心を現すかのように降ってきた。
雨が降っても私はそこから動かなかった。もう少し、後20分はここで待っていよう。
ブランコに座りゆっくり漕いでいく。動くたびにキィ…キィ…と金属音が鳴った。
頬には、濡れて重くなった前髪の雫が垂れる。その雫が頬を伝い、私の胸元に入っていく。
頬を伝うこの雫は雨なのかそれとも涙なのか。
彼の名前を呼んだ時日には戻れない。あの楽しかった日にはもう戻れないんだ……
ふと漕ぐのを止め、俯いた。
「あ、れ……」
頭の上にふわりと何かが落ちてきた。タオルのようなものが頭に乗せられまたもう一枚、さっきより大きいタオルが被せられ私の視界は奪われた。
「……誰?」
「……」
後に立っているであろう人は何も喋らない。一体誰だろうか、このことを知っているのは佐和子くらいしかいないはずだけれど……
「……ここで何をしているんだ」
「っ!!」
声がした。その声はまぎれもなく私の待ち望んでいた人だった。けれど、私は後を振りむけなかった。
「待って、いたんです」
「どうしてなんだ…どうしてここまで俺に」
彼の声はだんだんと小さくなり雨音でかき消されていった。
私は、タオルを取りブランコを降りて彼と向き合った。
「嫌いなら嫌いってはっきり言ってください」
まさかここまで大きな声が出るなんて思わなかった。最後は涙声で聞きとりづらかったかもしれない。でも、自分の中にあるありったけの気持ちをすべて言葉にした。
彼は私と目を合わせた。その瞳は鋭かった。間が空き、そっと彼は口を開いた。
「・・・・・・嫌いになるわけないだろう。むしろ・・・」
彼は手にしていた傘を放し、私を抱きしめた。今何が起こっているのかすぐには理解できなかった。
「好きだななこ」
彼の切なそうな声が私の耳に届いた。私は手を彼の腰にまわした。彼はびくりと動きさっきよりも強く私を抱きしめた。
そしてゆっくりと手を緩め、彼は私の身長に合わせて屈んでくれた。私はまぶたを閉じた。次に来るのは、甘い甘いキスだった。
雨はだんだんと弱くなり、雨はやんだ。
私達は恥ずかしさを隠すためぎこちなく笑った。そして手を繋ぎながら彼は私を家まで送ってくれた。
まだ若利さんと恋人同士になった実感がわかない。夢を見ているようで寝てしまったら、この夢が終わっていつものように彼を待つ生活が始まってしまうのではないかと心配になってしまう。
けれど、これは夢ではない。持っていた携帯が震え私は急いで電話に出た。
「もう寝るところだったか?」
「ううん、なんだか寝れなくて」
そうかと彼は答えた。私はさっきのことを彼に話した。すると、彼は黙りこんでしまった。
「若利さん?」
「……俺も同じことを思っていた。だが、俺の気持ちは変わらない」
おやすみと少し恥ずかしそうに彼は言った。私はおやすみなさいと答え、後ろ髪をひかれる思いで電話をきった。
「また明日も会えますように」
あの時間、あの場所で
end
20140630